著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「夜明けのすべて」瀬尾まいこ著

公開日: 更新日:

 藤沢美紗はPMS(月経前症候群)に悩む28歳だ。これは月経が近づくといらいらしてきて、精神が不安定になるというもの。人によっては不安で眠れなくなったり、無気力になったりもするが、彼女の場合は攻撃的になってしまう。周りが見えなくなり、歯止めもきかなくなって、怒りを爆発しきるまで治まらなくなる。

 もちろん病院に通っているが、薬を飲むと今度は無性に眠くなり、会議室で寝てしまったのを契機に退社することになる。

 もう一人の主役、山添孝俊はパニック障害に苦しむ26歳。漠然とした重苦しい不安が襲ってくる。体中がぞわぞわと騒いで落ちつかない状態に、突然なる。何が原因かわからない。医者には心因性と診断される。電車に乗っていて、そうなると呼吸が乱れてくるから、電車にも乗れないのだ。

 本書は、この2人が社員6人の栗田金属に再就職して始まる物語だ(山添君は徒歩で通勤する)。けっして笑い事ではないのだが、美紗が山添君の部屋に押しかけて、床屋に行けない彼のために髪を切ってあげたり、あるいは唐突に歌をうたいはじめるくだりは無性におかしい。

 社長をはじめ、栗田金属のみんなが理解ある人であるのも大きいが、読んでいると優しい気持ちになってくる。そんなに急ぐことはない。ゆっくりと生きればいい――そんな気持ちになってくる。これはそういう小説だ。

 (水鈴社 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    “マトリ捜査報道”米倉涼子の圧倒的「男運」のなさ…海外から戻らないダンサー彼氏や"前科既婚者"との過去

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    大阪・関西万博「最終日」現地ルポ…やっぱり異常な激混み、最後まで欠陥露呈、成功には程遠く

  5. 5

    米倉涼子“自宅ガサ入れ”報道の波紋と今後…直後にヨーロッパに渡航、帰国後はイベントを次々キャンセル

  1. 6

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 7

    新型コロナワクチン接種後の健康被害の真実を探るドキュメンタリー映画「ヒポクラテスの盲点」を製作した大西隼監督に聞いた

  3. 8

    巨人の大補強路線にOB評論家から苦言噴出…昨オフ64億円費やすも不発、懲りずに中日・柳&マエケン狙い

  4. 9

    元体操選手の鶴見虹子さん 生徒200人を抱える体操教室を経営、“アイドル”も育成中

  5. 10

    地上波連ドラ3年ぶり竹内涼真に“吉沢亮の代役”の重圧…今もくすぶる5年前の恋愛スキャンダル