「つげ義春 『ガロ』時代」正津勉著

公開日: 更新日:

 昨年2月、第47回アングレーム国際漫画祭でつげ義春が特別栄誉賞を受賞。授賞式に出席したつげは82歳にして初めての海外旅行だったという。

 同年4月、「つげ義春大全」全22巻が刊行、フランス語や英語版の全集の刊行が始まるなど、内外ともにつげの評価が高まっている。

 本書はつげと湯治場巡りをともにしたことのある著者が「ガロ」時代のつげ作品の足跡をたどったもの。

 著者が同志社において教えを請うた鶴見俊輔は、「つげ義春は、彼自身の不確かな生存のへその緒に達しようとして、その助けになるようなイメージを探し当てよう」としており、自分自身を支える不確かな根拠を探ろうとするこの試みは、反権力文化の象徴として同時代の若者を引きつけたと評した。

「ガロ」が創刊された1964年に18歳だった著者はまさに同時代の若者。つげが同誌に発表した「沼」に衝撃を受けた著者は、つげが同誌を舞台に新しい漫画の表現を切り開いていくに至った息吹を生き生きと伝えてくれる。

 本書で取り上げているのは、「紅い花」「李さん一家」「ほんやら洞のべんさん」「もっきり屋の少女」「ねじ式」「ゲンセンカン主人」など16作品。それらを旅、海、幽霊といったテーマに沿って克明に読解していく。その中核をなすのは、つげの「フォークロアの世界」への参入である。実際、著者が湯治場巡りで聞いたつげの柳田國男理解は格別なものだったそうだ。

 たとえば、「初茸がり」の翁童(おうどう)論、「通夜」の葬儀習俗など、そこここにフォークロア的な世界が展開されている。もうひとつは「起承転結の坐り整い」を捨て去って「序破急の走り乱れ」の方へ転換したこと。「沼」の「ズドーーン」という銃声で唐突に終わるラスト。「李さん一家」の「実はまだ二階にいるのです」という不条理なラスト。

 そのほか、つげのゆるがせにしない細部へのこだわりなど、豊富な図版を引用しながら解き明かしていく。

 つげ漫画の深さと広がりがひしひしと伝わってくる一書。 <狸>

(作品社 2200円+税)

【連載】本の森

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」