「アンブレイカブル」柳広司著
昭和2年の金融恐慌で日本経済がどん底不況に陥っていた頃、谷勝巳は蟹工船で一緒だった萩原純彦と、クロサキと名乗る男に声をかけられた。クロサキは内務省の役人だと言い、身元は特高の赤尾に問い合わせるよう言って、萩原を怯えさせた。
クロサキは萩原と谷に、プロレタリア作家の小林多喜二に会うように指示した。多喜二は次の作品のために、昨シーズン蟹工船に乗った者に取材しようとしていた。「拓殖銀行小樽支店調査係」の名刺を出した多喜二に、谷は「なして、あっただ地獄に興味があんだべ?」と尋ねた。(「雲雀」)
他に哲学者の三木清ら、治安維持法で罪状を捏造されながら官憲と闘った、敗れざる男たちの軌跡。
(KADOKAWA 1800円+税)