「つながり続けるこども食堂」湯浅誠著/中央公論新社

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 社会活動家の湯浅誠氏(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)によるこども食堂の現状報告だ。

 本書を読むと、こども食堂がさまざまな事情により食べられないこどもたちに食事を提供する場所という認識が間違っていることがわかる。こども食堂は地域の人々が集まり、人間の連帯性を回復する場なのだ。

 今流行の、多様性を尊重するだけでは、人間の連帯は回復できない。湯浅氏は、インクルージョンの重要性を説く。

<現にある多様性を封じ込めて、純化させようとするのは、現実的ではない。移民の受け入れを止めたところで、多様性から解放されるわけではない。日本人同士でも、健常者同士でも、たとえ家族であっても、人と人は、すでに、十分、多様だからだ。(中略)多様性がすばらしいものになるためには、多様性だけでは足りない。/何が足らないのか。インクルージョンが足りない。/インクルージョン(inclusion)は一般になじみのない英語だが、相当する日本語を探すと「配慮」という言葉に行き当たる、と私は考えている>

 人々が配慮し合う経験を積む場が、こども食堂なのだ。

 湯浅氏の政治哲学も興味深い。

<政治とは、「答えを出す」営みではない。政治とは、人々がすでに出している答えを引き出し、汲み上げ、形にし、地域と社会に投げ返すことを通じて、より多くの人たちが、目線を合わせて、「答えを生きられる」状態をつくる営み、その条件を整える営み、その意味での支援であり教育が「政治」だ、と私は思う。/(中略)2020年という節目の年にコロナが起こり、もはや局地的な災害ではなく、全国・全世界が非常時という中で、こども食堂の人たちは全国で奮闘し、今まで特に強くそうした問題意識をもっていなかった人たちも、「つながり」を、今まさに強く意識するようになっている>

 民衆の中に、解決しなくてはならない問題のみならずその回答も存在しているのである。大学教師をはじめとする知識人の仕事はそれを言語化することだ。さらに現実に問題を解決していくのが政治家と役人の仕事だ。民衆、学者、政治家、官僚をつなぐユニークな仕事に湯浅氏は従事している。

★★★(選者・佐藤優)

(2021年6月9日脱稿)

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