「東京を捨てる コロナ移住のリアル」澤田晃宏著/中公新書ラクレ

公開日: 更新日:

 本書は、コロナをきっかけに東京から淡路島に移住したルポライターの著者が、コロナ移住の実態を客観的に描いたものだ。移住体験を紹介する書籍はたくさんあるが、物書きのプロが書いたものは、段違いに読みやすい。構成がしっかりしていて、文章に無駄がないからだ。また、ルポライターらしく、多くの移住者に話を聞き、移住の良いところも、悪いところも、きちんと書いている。「移住こそパラダイス」のような断定をしないところは好感が持てる。さらに、移住支援金のことや、地域おこし協力隊、さらには農地売買の規制など、制度面のこともきちんと取材していて、移住ガイドブックとしての価値もある。

 著者は、淡路市で農業とライターの仕事を兼業している。私もコロナ以降、都心の事務所の滞在時間を大幅に減らして、都心まで90分の自宅近くで農業をしている。だから淡路市という遠くへの移住に踏み切った著者の生き方にとても興味を持っていた。一番の関心は、著者の移住後の詳細な家計や農業の実態だったのだが、この本は客観的にコロナ移住を描くことが目的で、著者自身の暮らし自体は、あまり詳しく書かれていない。

 それでも後半部分で、著者自身の移住後のライフスタイルが透けて見える。生活費はさほど減らないと著者は言う。家賃は劇的に下がるが、物価が高く、車が必需品なので、車にかかるコストが大きいからだ。ただ、著者は軽自動車と軽トラの2台を持っている。農業に軽トラは不可欠だが、お金のない人は原付で資材を運んでいる。ちなみに私は、さらにコストが低い自転車だ。また、著者は2台分の駐車場で月額8000円を支払っている。ずいぶん高いなと思ったが、そこで気づいた。淡路市は田舎ではないのだ。高速道路を使えば大阪中心部まで1時間で行けるトカイナカなのだ。

 本書が言っているわけではないが、中高年の脱大都市は、トカイナカしかないと私は感じた。若い人は本物の田舎で本格農業をやってもよいが、体力に劣り、しがらみの多い中高年には無理なのだ。いずれにせよ、本書は移住を考える前に読んでおくべき良質な書であることは間違いない。 ★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾