孤島に来た若手灯台守が奴隷扱いされ…

公開日: 更新日:

「ライトハウス」

 サイコスリラーというジャンルはもはやホラー映画の域を超えたらしい。むしろ時代の無意識を託す一種の文学的ジャンルとでもいいますか。その好例が7月9日封切りの「ライトハウス」である。

 北大西洋の荒波をかぶる孤島の灯台。新しく赴任した若い助手が、古株の上司に奴隷扱いされる。男ふたりだけの孤島の物語といえばリー・マービンと三船敏郎の「太平洋の地獄」を思い出すが、あれは太陽ギラギラの南洋の話。こちらは全編モノクロで、暗く閉ざされた冬の北大西洋岸が舞台だ。

 見どころは映像がメルビル「白鯨」を思わせる古典文学の趣であること。もうひとつが主演男優のコンビだ。

 ベテランの灯台守はウィレム・デフォー。アンチ・ハリウッドの典型的な性格俳優で使い方の難しい役者だが、ここでは近頃まれに見るハマり方だ。対する助手が新しいバットマン映画の主役に決まったロバート・パティンソン。今風の一癖ありげな二枚目だが、本作では過去の記憶に苦しむおびえた男。

 監督のロバート・エガースは彼らをうまく操って、神なき世を生きるしかない現代を寓意している。いわば現代人は神の代わりに心の傷(トラウマ)にすがって生きているのだ。

 絶海の孤島の物語というと子ども時代のロビンソン漂流記を思い出す向きも多いだろう。実はロビンソン・クルーソーが漂着したのは絶海の孤島ではなく、南米トリニダード島東南のオリノコ河口に近い小島に想定されていたのだそうだ。作者のD・デフォーは地理、航海、通商の知識が豊富で、大人向けの正編では主人公のクルーソーが奴隷売買にも手を染めた豪胆な男だったことがわかる。その点、「完訳 ロビンソン・クルーソー」(中央公論新社 1047円)が抜群にいい。訳者・増田義郎氏の解説が出色で、今更ながら慧眼に感服する。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【広陵OB】今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  2. 2

    横浜高では「100試合に1回」のプレーまで練習させてきた。たとえば…

  3. 3

    健大高崎158キロ右腕・石垣元気にスカウトはヤキモキ「無理して故障が一番怖い」

  4. 4

    中居正広氏「秘匿情報流出」への疑念と“ヤリモク飲み会”のおごり…通知書を巡りAさんと衝突か

  5. 5

    広陵・中井監督が語っていた「部員は全員家族」…今となっては“ブーメラン”な指導方針と哲学の数々

  1. 6

    前代未聞! 広陵途中辞退の根底に「甲子園至上主義」…それを助長するNHK、朝日、毎日の罪

  2. 7

    渡邊渚“初グラビア写真集”で「ひしゃげたバスト」大胆披露…評論家も思わず凝視

  3. 8

    中居正広氏は法廷バトルか、泣き寝入りか…「どちらも地獄」の“袋小路生活”と今後

  4. 9

    あいみょんもタトゥー発覚で炎上中、元欅坂46の長濱ねるも…日本人が受け入れられない理由

  5. 10

    あいみょん「タモリ倶楽部」“ラブホ特集”に登場の衝撃 飾らない本音に男性メロメロ!