「犬は愛情を食べて生きている」山田あかね著

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 太田快作は獣医師。東京・杉並で動物病院を開き、一般診療をしながら動物愛護活動を続けている。批判を恐れず、権威にひるまず、身を粉にして働いている。動物愛にあふれるこの獣医師はどのようにして誕生し、何を実践してきたのか。彼の軌跡をたどったノンフィクション。

 子供の頃から生き物が好きで、中学、高校時代は生物部。研究者になりたくて北海道大学獣医学部を目指すが2浪の末、北里大学に入学した。暇を持て余してブラブラしていた大学1年の夏休みに転機が訪れる。「牧場にでも行ってみたら」という母のひと言に促されて、北海道名寄市の牧場でアルバイトを経験した。そのとき、牧場主の息子にこう問われた。

「太田くん、獣医学部ってことは動物実験あるよね。動物実験できるの? 動物殺せるの?」

 彼のピュアな心に火がついた。殺さなくて済むなら、そっちが絶対にいい。海外には動物実験代替法というものがあることを知り、その普及を目指して獣医学部のある全国の大学を回って展示会を開いた。議論が巻き起こり、批判されても、自分の意見を曲げなかった。

 彼は見捨てられた動物を放っておけない。多頭飼育崩壊の現場で奮闘し、保護された動物の去勢手術を手伝う。保健所の犬舎から引き取った犬、花子は20年に及ぶ伴侶となった。アパートはいつも犬でいっぱいで、部屋も生活もボロボロ。ひとりの力の限界を知り、大学に動物愛護サークル「犬部」をつくって仲間を募った。このサークルは今も後輩たちに受け継がれている。

 正しいと思ったことはとことんやるので、トラブルも多かった。でも、ピンチのときは協力者、支援者に助けられ、尊敬できる先輩や教師に教えられて、いまの太田快作がある。

 私たち人間は、動物の命をもらって生きている。その動物のために何ができるか。この問いに真摯に向き合う姿は感動的だ。

(光文社 1760円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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