「証言・終わらない日産ゴーン事件」市岡豊大著

公開日: 更新日:

 2018年11月19日。日産自動車を再生に導いたカリスマ経営者、カルロス・ゴーンが一夜にして犯罪者におとしめられた。これはゴーンが主張するように日産の陰謀なのか。はたまた日本が誇る企業を守るための国策捜査なのか。

 著者は産経新聞記者。ゴーン逮捕当時、司法担当として日々この事件を追っていた。複雑な事件の本質を解明するためにその後も取材を続け、事件の鍵を握ると思われるグレッグ・ケリーに複数回のロングインタビューを試みた。ケリーは日産自動車の元代表取締役。ゴーンの共犯者として東京地検特捜部に逮捕・起訴された。米国テネシーへの帰郷を願っているが、刑事裁判中の身だ。

 ケリーは自身に起きたことを淡々と語る。著者の目には「誠意あふれる実直な人柄」と映る。嘘をついているとは思えず、検察の捜査手法の犠牲者にも見える。しかし、本当にそうなのか。取材を重ねるうちにケリー像もゴーン像も揺れ動く。

 ある検察関係者は言う。米国の弁護士資格を持っているケリーは、ゴーンが個人的に悪さをするときのアドバイザーだったのではないか。

 元日産幹部はこう証言する。ゴーンは自分の評価を非常に気にする人で、細部の細部までリーダーとして、人間として素晴らしい人だと見せたい。ゴーンに心酔していたケリーは、ゴーンにとって使い勝手がいい汚れ役だった……。

 こうした見方があることをケリー本人に投げかけると、彼はきっぱり否定する。ゴーンの逃亡をどう思うかとの質問については、「彼がここにいて、私の無実を証言してくれたら、とは思いますけれども、理解もできる、彼がやったことを」と複雑な心境をのぞかせる。

 取材をもとに作成したという事件当時の日産社内人間関係図には、ゴーンとケリーを中心に、信頼、重用、裏切り、険悪などの文字で幹部の相関関係が示され、複雑な背景が透けて見える。事件はまだまだ終わらない。

(光文社 1760円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 2

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  3. 3

    さすがチンピラ政党…維新「国保逃れ」脱法スキームが大炎上! 入手した“指南書”に書かれていること

  4. 4

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  5. 5

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  1. 6

    中日からFA宣言した交渉の一部始終 2001年オフは「残留」と「移籍」で揺れる毎日を過ごした

  2. 7

    有本香さんは「ロボット」 どんな話題でも時間通りに話をまとめてキッチリ終わらせる

  3. 8

    巨人は国内助っ人から見向きもされない球団に 天敵デュプランティエさえDeNA入り決定的

  4. 9

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  5. 10

    佐藤輝明はWBC落選か? 大谷ジャパン30人は空前絶後の大混戦「沢村賞右腕・伊藤大海も保証なし」