「保身 積水ハウス、クーデターの深層」藤岡雅著

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 地面師とは、他人の土地を自分のものと偽って第三者に売り渡す詐欺師のこと。土地取引のプロであるはずの積水ハウスが、あろうことか地面師に55億円を騙し取られた事件は、積水ハウスの信用とブランドを大きく傷つけた。

 取引を仲介したのはペーパーカンパニー。本当の地主から送られた「取引していない」という内容証明付き書面。リスクの高い預金小切手での支払い。危険信号がいくつも点滅していたにもかかわらず、取引は実行された。これは本来「騙されるはずのなかった事件」ではないのか。

 事件後、全容解明を進めた積水ハウス会長の和田勇が突如失脚する事態となった。2018年1月の取締役会で会長職解任動議が提出され、社長の阿部俊則が会長職に就いたのだ。

 和田は社長・会長として20年積水ハウスに君臨し、圧倒的な実力と実績を誇っていた。解任動議は高齢の会長による絶対政治を解消する「ガバナンス改革」を標榜していたが、実態は違っていた。背景にあったのは地面師事件の「調査報告書」。そこには事件への社長責任が明記されていた。解任劇は、責任を問われた社長と経営幹部による「保身」のためのクーデターだった。結果、公開されるべき調査報告書は隠蔽された。

 著者は「週刊現代」などで数々の企業不祥事を取材してきた記者。本書では積水ハウスの地面師事件と社内クーデターの深層を探りながら、日本企業の腐敗構造までもえぐり出している。

 役職が上の者ほど責任から逃げる。小物ばかりトップになる。不都合なことを隠して、なかったことにする。下には厳しく、上には優しい、名ばかりのコンプライアンス。漂流する企業倫理……。日本には、いまだ経営責任者の不正を監視し、正す機能がないと著者は指摘する。ここに描かれている企業の負の側面は、いや応なしに今の政治状況に重なって見える。

(KADOKAWA 2090円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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