「白衣の嘘」長岡弘樹著

公開日: 更新日:

 昨年と今年の1月に続けてテレビドラマ化された「教場」「教場2」は、警察学校を舞台にした絶妙な伏線を駆使したトリッキーなミステリーとして高い評価を得ている。短編の名手としても知られる著者が、初めて挑んだ病院を舞台にした短編ミステリーといえば、いやが上にも期待が高まる。

【あらすじ】冒頭の「最後の良薬」は、地方の個人病院が舞台。

 内科医の副島は、ある日、院長にがん末期の患者の担当を命じられる。終末期医療の経験のない副島だが、命令なら仕方がない。しかし当の患者の友葵子は何を聞いても返事をしない。窮した副島は先輩医師の児玉に相談するが……。あちこちに置かれていた伏線が後半一気に回収され、思わぬ結末を迎える。

 続く「涙の成分比」は、事故で片足を失った大学のバレーボール選手の彩夏と医者である姉・多佳子が主人公。選手生命を絶たれた彩夏はその憤まんを姉にぶつけるが、その多佳子がくも膜下出血で倒れてしまう……。

 3作目の「小医は病を医し」は、病院の事務長の失踪、窃盗犯の入院患者、秘密を抱えた医師の3つが絡み合いながら最後、ひとつに収束していく。その他、うつを患っている女性研修医の回復を図りながら彼女を追い込んだある医師の秘密が暴かれていく「ステップ・バイ・ステップ」。救命医療センターの次期センター長争いをめぐって深刻な駆け引きが行われる「彼岸の坂道」、親族間の腎移植の問題を見事な心理ドラマに仕立て上げた「小さな約束」。

【読みどころ】どんでん返しあり、ミスリードあり、人間ドラマあり、ちょっとしたラブストーリーありと、全6編、いずれも短編ミステリーのお手本となるような小技が利いていて、読み応えたっぷり。 <石>

(KADOKAWA 660円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?