著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「嫌われた監督」鈴木忠平著

公開日: 更新日:

 落合博満は3度の三冠王を達成した大打者だが、引退してからも2004年から2011年まで中日ドラゴンズの監督を務め、すべての年でAクラス入りを果たし、4度のリーグ優勝、1度の日本シリーズ優勝を達成している。つまり、名監督といっていい。ところが、嫌われた監督だったというのである。ではなぜ、これだけの実績を残しながらも嫌われていたのか。本書は、その落合博満の「監督としての8年間」を描くノンフィクションだ。

 一般的には2007年の日本シリーズが有名だろう。日本ハムを相手に3勝1敗で迎えた第5戦。1対0のリードを保ったまま、九回を迎えたとき、それまで完全試合を続けていた先発の山井大介を交代させて、日本中を驚かせた。それで中日ドラゴンズは日本シリーズの覇者となるのだが、「私なら代えない」と星野仙一は言い、「理解できない」と野村克也はコメントした。

 監督落合博満が嫌われていたのは、語ることが極端に少なかったからだ、と著者の鈴木忠平は書いている。勝ちに徹し、理解されることを求めない孤高の監督像を、本書は鮮やかに描いている。

 セカンドを守って6年連続でゴールデングラブ賞を受賞していた守備の名手荒木雅博を、2010年にショートにコンバートするくだりが象徴的だ。他の誰にも見えなかったものを落合は見ていたのだ。快著である。

(文藝春秋 2090円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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