著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「フィッシュボーン」生馬直樹著

公開日: 更新日:

 暴力団組長の父を持つ陸人。虐待を受け、児童養護施設で育った航。愛人殺しの罪で父が服役中の匡海。学校の中で浮いているこの3人が出会うのが、物語の始まりだ。

 彼らは成長して、チーム・ランズを結成する。いろいろな悪事に手を出すが、アクシデントが発生して早急に大金を得る必要が生じ、起死回生の誘拐計画を考えるのが次の展開。第1章は、その誘拐計画の思わぬ着地を描いて幕を閉じる。ここで57ページ。全体が252ページの小説なので、まだ始まったばかり。

 このあとどうなるか。第2章について少しだけ触れておくと、施設で生き別れの妹と再会した航の回想、身元不明の焼死体を調べる刑事柳内と、その娘結衣子を襲った悲劇など――誘拐計画のその後の後始末を中心に、その前とその後を描いていくのだ。人物造形が秀逸なので、つい読まされてしまうが、謎が謎を呼んで、いったい真実は何なんだというところで、第2章の幕は閉じる。分量的にはこの第2章がいちばん長く、たっぷりと読みごたえがあるが、肝心のところは明らかになっていない。

 最後の第3章は50ページと短く、ここですべてが明らかになるので、ここはいくらなんでも紹介できない。前作「雪と心臓」も構成に凝った小説だったが、今回も水面下に隠された真実が明らかになる第3章が圧巻。異色のミステリーだが、なによりも読後感がいい。切なく悲しい青春小説でもあるのだ。 (集英社 1870円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃