「日本の路地」 パイ インターナショナル編

公開日: 更新日:

 日本中、どこに出かけても、大きな街の駅前やバイパス通り沿いには、チェーン店の看板が連なり、画一的な風景になってしまった。

 しかし、通りを外れて一歩、路地に足を踏み入れれば、その町ならではの風情が残る景観がまだまだ残っている。

 本書は、日本各地のそんな趣を持った路地をめぐる写真集。

 沖縄県那覇市の首里金城町の石畳道は、琉球石灰岩が敷かれた道で、首里城へと続く。16世紀初めから整備され、戦禍を免れた約238メートルの道が、往時の屋敷街の面影を今に伝える。

 坂の町といわれる長崎は、斜面にギッシリと建てられた住宅の間を縫うように路地が走り、町の毛細血管の役割を果たしているという。

 潜伏キリシタンの地である長崎県平戸市には、路地に沿って続く寺院の壁の向こうに教会の尖塔がのぞき、和洋の宗教施設が同時に見られる名所となっている場所もある。

 長崎と同じく坂の町である広島県尾道市の路地は、狭く迷路のように入り組んでいる。

 この先は行き止まりではなかろうかと心配になるほどの狭い道を郵便配達のバイクが駆け抜けていく。

 今は観光名所となっている路地も多いのだが、こうした生活感があふれる一枚に、心が和む。写真の中に住人の姿は見当たらないが、そこに暮らす人々の息遣いまで伝わってくる。

 路地に似合うのが猫だ。尾道の路地の石段を上ると、人なれした猫が待ってくれていたかのように座っている。

 島根県松江市美保関町の「青石畳通り」は美保神社から仏谷寺まで続く参拝道で、近くの海岸から切り出された石畳の石が雨に濡れると青く見えることから名付けられたという。

 アートの島として知られる香川県の直島には、築100年を超える焼き杉板の古い家屋が連なる路地もある。

 路地と聞くと、飲食店街を思い浮かべる人もいるだろう。大阪の「新世界」や東京・神楽坂の「みちくさ横丁」、青森県八戸市の「ハーモニカ横町」など、長年地元の人々に愛されてきたそうした路地も紹介されている。

 もちろん、京都の祇園や石塀小路をはじめ、兵庫県の神戸北野異人館街や長野県の妻籠宿など、人気の観光地の路地も網羅。

 石川県金沢市の長町武家屋敷跡では、土塀を雪から守る冬の風物詩の「こも掛け」など、その季節ならではの光景も紹介される。

 南から北まで北上しながら140もの路地を巡る。次に観光地や名所を訪ねた折には、ちょっと足を延ばし、あえて路地に迷い込んでみようかなと思わせてくれる写真集だ。 

(パイ インターナショナル 2035円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  3. 3

    3年連続MVP大谷翔平は来季も打者に軸足…ドジャースが“投手大谷”を制限せざるを得ない複雑事情

  4. 4

    高市政権大ピンチ! 林芳正総務相の「政治とカネ」疑惑が拡大…ナゾの「ポスター維持管理費」が新たな火種に

  5. 5

    自民党・麻生副総裁が高市経済政策に「異論」で波紋…“財政省の守護神”が政権の時限爆弾になる恐れ

  1. 6

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 7

    沢口靖子vs天海祐希「アラ還女優」対決…米倉涼子“失脚”でテレ朝が選ぶのは? 

  3. 8

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  4. 9

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  5. 10

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち