著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「アリスが語らないことは」ピーター・スワンソン著、務台夏子訳

公開日: 更新日:

 分類すれば、ファム・ファタル(悪女もの)ということになるのかもしれないが、そう名付けた途端に、この小説の魅力の大半がこぼれてしまうような気がする。

 父親の事故死の知らせを受けて帰郷した大学生ハリーを待っていたのは美しい継母アリスだった--というところから始まる物語だが、父親は事故に遭う前に何者かに頭を殴られていた形跡があり、では誰に殺されたのかというハリーの現在を描くパートと、アリスの10代のころを描くパートが交互につづられていく長編である。

 このアリスの過去編が圧巻。母イーディス、継父ジェイク、友人ジーナの、それぞれの造形も秀逸だが、彼らとの関係を描く筆致が素晴らしい。これは全体の5分の1のところに出てくる場面なので、ここにも書いてしまうが、母の死をアリスがじっと見るシーンがある。なぜ母を助けないのか、なぜじっと見ているだけなのか、アリスの心中が詳細に描かれないことに留意。アリスが語らないことがほかにもたくさんあり、その分だけアリスというヒロインの像が私たちのなかで膨れ上がっていく。彼女はいったい何を考えて生きているのかと。

 ストーリーが面白いだけでなく、構成は驚くほど巧みで、さらにサスペンスが充満していて、読み始めたらやめられない傑作だ。これが面白ければ、この作家、同文庫から他に2作出ているのでそちらもどうぞ。

 (東京創元社 1210円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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