北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「浪曲は蘇る」杉江松恋著

公開日: 更新日:

 玉川福太郎と伝統話芸の栄枯盛衰、と副題の付いた書だが、いやあ、面白い。

 浪曲初心者には知らないことばかりなので、そうだったのかと膝を打つことの連続なのである。たとえば講談、落語、浪曲の三大話芸を比べてみると、講談の歴史がいちばん古く室町時代、次に落語は江戸時代中期まで起源を遡ることができるが、浪曲は比較的新しく明治に入ってからだという。

 大正から昭和前期が浪曲の全盛時代で、浪曲師は全国で3000人(現在の落語家が東西で900人であることと比べれば、すごい数である)だったが、テレビの普及とともに人気は下火になっていく(テレビ向きの芸能ではなかったことがその理由のひとつだと著者は書いている)。

 本書はこの50年間の浪曲界の変遷を、玉川福太郎を軸に描いていくが、その福太郎の二番弟子、玉川お福は50歳を過ぎてからの入門というのが興味深い。大病から回復したあと、残りの人生は好きなことをしていきたいと、以前から好きだった浪曲の世界に飛び込むのだが、このように講談、落語に比べて、デビューの年齢が遅いケースが少なくない。

 浪曲界は慢性的な新人不足で、「浪曲がいちばん早く稼げるよ」と言って新人を勧誘するエピソードが本書にあるのも、その間の事情を語っている。日本テレビの「進ぬ! 電波少年」にケイコ先生で出演したことのある春野恵子が、のちに浪曲師になっていることを本書で知った。 

(原書房 2200円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

    大谷騒動は「ウソつき水原一平におんぶに抱っこ」の自業自得…単なる元通訳の不祥事では済まされない

  2. 2
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  3. 3
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  4. 4
    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

    中学校勤務の女性支援員がオキニ生徒と“不適切な車内プレー”…自ら学校長に申告の仰天ア然

  5. 5
    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

    初場所は照ノ富士、3月場所は尊富士 勢い増す伊勢ケ浜部屋勢を支える「地盤」と「稽古」

  1. 6
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  3. 8
    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

    「チーム大谷」は機能不全だった…米メディア指摘「仰天すべき無能さ」がド正論すぎるワケ

  4. 9
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 10
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”