著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「プロジェクト・ヘイル・メアリー」(上・下)アンディ・ウィアー著、小野田和子訳

公開日: 更新日:

 いやあ、面白い。ほんのちょっとだけのつもりで読み始めたら、やめられなくなった。

「できれば本書は、内容についてなんの事前情報もなしに読んでいただくのがいちばんいい」と解説(山岸真)にあったので、おお、それではそうしよう、と帯の惹句も見ずに読み始めたが、そのためにサスペンス満点。主人公が目を覚ます場面から本書は始まっているが、彼は自分の名前もわからず、どこにいるのかもわからない。病室めいた室内には、他に2つのベッドがあり、そこに横たわる男女は死んでいる。なんなんだこれは。主人公は記憶を失っているので、その状況の意味がわからず、読者もまた一緒に手さぐりで進んでいくことになるから、サスペンスが充満するのである。

 主人公の記憶が少しずつ蘇っていくので、その過去の部分と、手さぐりで進んでいく現在の部分が、交互に語られていくことになる。自分が教師であること、太陽がエネルギーを失いつつあり、このままでは地球上のあらゆる生物が絶滅してしまうこと。その危機を救うために、いま自分が宇宙船に乗っていること──それが判明するのが上巻の98ページ。全体の6分の1だ。

 つまりこれ、SFである。しかしSF嫌いの人にこそ、本書をすすめたい。超面白いので。ただし、下巻の帯だけは見ないほうがいい。第6章の終わりで、主人公と一緒に「うっそだろう!」と叫んでほしいと思う。 (早川書房 各1980円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    農水省ゴリ押し「おこめ券」は完全失速…鈴木農相も「食料品全般に使える」とコメ高騰対策から逸脱の本末転倒

  3. 3

    TBS「ザ・ロイヤルファミリー」はロケ地巡礼も大盛り上がり

  4. 4

    維新の政権しがみつき戦略は破綻確実…定数削減を「改革のセンターピン」とイキった吉村代表ダサすぎる発言後退

  5. 5

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  1. 6

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  2. 7

    粗品「THE W」での“爆弾発言”が物議…「1秒も面白くなかった」「レベルの低い大会だった」「間違ったお笑い」

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  5. 10

    巨人阿部監督の“育成放棄宣言”に選手とファン絶望…ベテラン偏重、補強優先はもうウンザリ