著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「匿名作家は二人もいらない」アレキサンドラ・アンドリューズ著、大谷瑠璃子訳

公開日: 更新日:

 匿名のベストセラー作家がアシスタントを募集していて、それに応募して採用されたヒロインの日々を描く長編である。

 このヒロイン、フローレンスが作家志望で野心満々の女性という設定がこの長編のキモ。彼女は匿名作家の原稿を打ち直すことも仕事の一つなのだが、この表現は変えたほうがいいと思うと、さりげなく変更して打ち直したりするのである。もちろん匿名作家がもう一度確認するから、バレることもありうるが、そのときはそのときだとフローレンスは考える。ところがバレない。

 ここで、パトリシア・ハイスミス「太陽がいっぱい」を連想するのはたやすい。アラン・ドロン主演の映画が日本で公開されたのが1965年、その原作が翻訳されたのが1971年。どちらも50年以上前の話なので、いまや知らない人もいるかもしれない。無名の青年が金持ちを殺してなりすます話である。

 匿名作家の正体を知っているのはエージェント1人。ということは、そのエージェントをどうにかすれば、匿名作家になりすますことも可能ということだ。つまり、このアシスタントが匿名作家を殺すのではないか、と展開を予想するのである。

 そんなネタばらしをして大丈夫か、と心配するムキもあるかもしれないが、ご安心。「太陽がいっぱい」とはまったく違う方向に進んでいくのだ。予想もつかない方に転がっていくその展開が素晴らしい。 (早川書房 1496円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  2. 2

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  3. 3

    阪神・佐藤輝明が“文春砲”に本塁打返しの鋼メンタル!球団はピリピリも、本人たちはどこ吹く風

  4. 4

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も

  5. 5

    広末涼子「実況見分」タイミングの謎…新東名事故から3カ月以上なのに警察がメディアに流した理由

  1. 6

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃

  2. 7

    国保の有効期限切れが8月1日からいよいよスタート…マイナ大混乱を招いた河野太郎前デジタル相の大罪

  3. 8

    『ナイアガラ・ムーン』の音源を聴き、ライバルの細野晴臣は素直に脱帽した

  4. 9

    初当選から9カ月の自民党・森下千里議員は今…参政党さや氏で改めて注目を浴びる"女性タレント議員"

  5. 10

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」