著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ジグソー・キラー」ナディーン・マティソン著、堤朝子訳

公開日: 更新日:

 連続殺人鬼は刑務所に収監されているというのに、同じ手口の殺人が起きる──という冒頭から始まる物語は珍しくない。しかも連続殺人鬼が死体にほどこすシンボルまで彫られていた(これはマスコミにも公開されず、捜査関係者にしか知らされていない)。では、刑務所に収監されている連続殺人鬼から聞いたやつが犯人に違いない。単なる模倣犯なら知っているはずがないのだ。というわけで、刑務所に面会に行くという最初の展開も、これまで何度も読んできたような気がする。つまり新味がない。

 にもかかわらず、650ページの長編を一気読みしてしまうのは、細部がいいからだ。人種のるつぼと言われているロンドンでも、黒人の女性警部補は珍しいようだが、このヒロイン、連続犯罪捜査班の警部補アンジェリカ・ヘンリーが大活躍するのだ。危険な警察の仕事はやめてくれと夫は何度も要求してくるし、愛娘とゆっくり過ごす時間が取れないほど忙しいし、上司は口説いてくるし(しかもこのヒロイン、応じたりする)、アンジェリカは仕事がなにより大好きなので、へこたれないのだ。

 連続犯罪捜査班の面々を主人公にしたシリーズの第1作で、今回はアンジェリカの相棒になった見習刑事ラムーターが縦横無尽に走りまわるが、このあとも順調に翻訳されていけば、他の面々の活躍ぶりも見られるかもしれない。次作を楽しみに待ちたい。

 (ハーパーBOOKS 1480円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも