「しりあがり×北斎 ちょっと可笑しなほぼ三十六景」しりあがり寿著

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 レオナルド・ダビンチの「モナリザ」の次、世界で2番目に有名な絵は、荒波にもまれる船の向こうに富士山が見える葛飾北斎のあの「神奈川沖浪裏」だそうだ。

 この名作を含む北斎の代表作のひとつ「冨嶽三十六景」を人気漫画家がパロディー化したアート作品集。

 例えば「神奈川沖浪裏」ならば、「銭湯でこども大暴れ」と題し、銭湯の湯船で子供がはしゃいで湯が波打ち、その波に桶やお風呂場の玩具の定番であるアヒルが翻弄される。その波の向こうの富士山はもちろん銭湯につきもののペンキ絵という具合だ。

 同じ「神奈川沖浪裏」を題材に、波の向こうにあったはずの富士山が、なぜか海の中にそびえ、荒波に耐えている絵もある。こちらのタイトルは「地球温暖化日本水没」となかなか辛辣だ。

 朝焼けに彩られた赤富士を描いた「冨嶽三十六景」内のもうひとつの名作「凱風快晴」は、髭に見立てた山麓の樹海部分がカミソリによってさっぱりとした「髭剃り富士」に、同じ構図で赤富士に対し「黒富士」とも呼ばれる「山下白雨」は、裾野に描かれた稲光を道路に見立て、5合目の駐車場に列をなして車が押し寄せ、山頂は日の出を求める観光客がひしめく現代の富士山を連想させる「富士山大混雑」に変身。

 そして職人が作る大桶のはるか向こうに頭を出す小さな富士山を描いた「尾州不二見原」は、大桶がメビウスの輪になってしまった「メビウスの桶」、さらに桶が答案用紙の花丸の形をしたもう一つの作品は「たいへんよくできました」のタイトルで思わずニヤリ。

 戯れるように名作をあの手この手で遊びつくす。

 パロディーはオリジナルの作品が有名でなければ成り立たない。世界中がその絵を知っている北斎こそ「パロディーにふさわしい作家」だと著者はいう。

 著者によると、北斎とパロディーで遊んで改めて思うのは「北斎がいかにタフかということ」だという。

 70年にもわたって森羅万象をあらゆる技法で描き続けた北斎の作品は「発想が豊かなだけではなく、何よりも構図が大胆でダイナミックで、しっかりしていて、ちょっとやそっといじったところでまったく動じない」そうだ。

 なぜなら北斎自身が「常にしなやかに、次々と自分を壊してもっと面白いこと、もっと新しいことを目指していたので、いくらパロディーで遊んでも北斎の方がさらに先まで進んでいる」と感じられたという。

「冨嶽三十六景」と銘打ちながら実は46点もあるオリジナルのひとつひとつをパロディー化。

 さらに、客を乗せたボートが滝つぼめがけてダイブする某テーマパークの人気アトラクションを連想させる「美濃ノ国養老の滝」などの「諸国瀧廻り」シリーズや、焼きはまぐりの店が易占いに代わり女性の占い師に「うわっ 生命線短い!!」と驚かれて焦る旅人などを描いた「東海道 彩色摺 五拾三次」など、北斎の別のシリーズもパロディー化。

 現代の鬼才が、江戸時代の天才とがっぷり四つに組んで遊びつくした面白作品集だ。

(小学館 2200円)

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