「バブルの王様」森功著

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 1932年、愛知県の漁村に生まれ、戦後間もなく上京。衣類問屋の丁稚奉公から始めて一代で地下金融の帝王にのし上がった。貸金を厳しく取り立てて「マムシの森下」「企業の葬儀屋」などとありがたくないあだ名で呼ばれもした。

 小柄で細身だがエネルギッシュ。4人の妻との間に5人の子供をもうけ、ベルサイユ宮殿のような豪邸に住んだ。毎年、妻や娘を連れて欧米大名旅行に出かけ、一度に数千万円を使った。内外のゴルフ場、フランスの古城、巨額の名画を買いまくり、トランプタワーの56階ワンフロアを買い占めた。性欲も物欲も名誉欲も、金があれば手に入った。

 ノンバンク・アイチを率いた森下安道という人物の生涯を通して、バブル時代の狂乱ぶりを描いたノンフィクション。「金融業は金を商品として扱うビジネス」が森下の持論で、金もうけに辣腕をふるった。金のにおいは人を吸い寄せる。「蝶ネクタイの乗っ取り屋・横井英樹」「環太平洋のリゾート王・高橋治則」といったバブル紳士たちにとどまらず、政治家、反社会的勢力、さらには欧米の社交界へと、森下の人脈は広がっていく。

 バブルの王様のように君臨した森下は、イトマン事件をはじめとする数多くの経済事件に関与した。日本中が浮かれていたあの時代の裏側で、実のところ何が起きていたのか。森下本人と関係者への取材を通して明らかになっていく。

 1991年、バブル崩壊。わが世の春は去り、1996年にアイチは倒産。しかし2年後、森下は復活する。イ・エスという会社を立ち上げ、絵画ビジネスや不動産業を再開した。姿を消した多くのバブル紳士とは異なり、しぶとく賢く生き残った。

 徹底した拝金主義を貫いて成り上がり、欲するものを手に入れた森下だったが、2021年に永眠。時間だけは金で買うことができなかった。 (小学館 2090円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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