「本多静六 若者よ、人生に投資せよ」北康利著

公開日: 更新日:

 もしこの人がいなかったら、日本の景観はかなり違ったものになっていただろう。

 本多静六は日本初の林学博士。ドイツ留学して林学を修め、帰国後、大きな仕事を次々に手がけた。日比谷公園をはじめとする全国各地の公園を設計し、明治神宮建設時には、限りなく自然に近い森をつくり出した。後藤新平に請われて関東大震災後の東京復興計画を立案、国立公園の制定にも携わった。

 静六は、並外れた努力の人だった。同じ靴を3年、同じ靴下を4年履くほどの貧乏、飲まず食わずの苦学を経験したからか、若くして蓄財に目覚め、帰国すると、大学の俸給の中から「4分の1天引き貯金」を始めた。ある程度貯まると、今度は投資に乗り出した。聡明な妻の支えもあって、資産は順調に積み上がっていく。40歳のときには大学の俸給より利子や配当のほうが多くなった。特に、得意分野である山林への投資は、静六を大資産家にまで押し上げていく。

 学究の徒に清貧を求めがちな世間は、蓄財に励む静六をときにとがめ、妬んだが、動じなかった。後年、静六は築いた財産の大半を、若い世代の育成のために寄付している。

 自然保護の意識が希薄な時代、一本の古木を切らせないために自分の首を懸けるような一途な林学者だったが、「社会のため」という大きな視点を持ち続けた。昭和27(1952)年、85歳で生涯を閉じるまで活動をやめなかった。

 この評伝の著者は、静六の生涯から、現代人が学ぶべき多くの教訓を引き出している。自然保護やSDGsの考え方と実践、そして、人として豊かに生きる術。タイトルに「若者よ、人生に投資せよ」とある。投資はただの金儲けではなく、人生という豊かな森を築くこと。「蓄財の神様」の生涯は、そのことを説得力をもって伝えている。

(実業之日本社 2200円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  2. 2

    紗栄子にあって工藤静香にないものとは? 道休蓮vsKōki,「親の七光」モデルデビューが明暗分かれたワケ

  3. 3

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  4. 4

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  5. 5

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  1. 6

    永野芽郁×田中圭「不倫疑惑」騒動でダメージが大きいのはどっちだ?

  2. 7

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 8

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動

  4. 9

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 10

    永野芽郁がANNで“二股不倫”騒動を謝罪も、清純派イメージ崩壊危機…蒸し返される過去の奔放すぎる行状