「戯れる 江戸の文字絵」楊暁捷著 板坂則子監修

公開日: 更新日:

「東海道中膝栗毛」などで知られる江戸時代の戯作者で絵師の十返舎一九に「文字の知画」(文化4年=1807年)と題する滑稽本がある。「もんじのちえ」と読み、「知画」は作者の造語だ。この滑稽本、市中で見かけるさまざまな人物を口上と挿絵で紹介する、いわば「人物図鑑」のようなもの。

 登場するのは老若男女41人と犬1匹で、挿絵に加え、川柳や狂歌、短歌を駆使して、江戸っ子たちの何げない日常を面白おかしく伝える。

 驚くことに作者本人による挿絵の人物は「文字絵」(「へのへのもへじ」のように文字を組み合わせて描かれた絵)で描かれており、絵に隠された文字を探す楽しみもある。

 本書は、各口上を現代語訳して解説しつつ、それぞれの挿絵に隠された文字絵の解答編も合わせて示す面白古典テキスト。

 最初の見開きはお正月がテーマ。登場するのは5人の人物で、最初に「御れい申候」と題し、玄関で祝詞を交わす男が描かれる。添えられた狂歌から、実は男が大晦日から執拗に訪ねてくる借金取りから逃げ回る口実として年始回りをしていると分かるという。

 続いて登場するのは門前で芸を見せて金品を受け取る門付芸「まんざい」と「さいぞう」の2人。

 口上で、「まんざい」を披露する主役の太夫と、これを楽しむ客のやりとりを紹介。文字絵は、太夫の恰幅の良い体を包んだ着物の様子で「まんざい」の4文字を表している。

 以下、仕事中に下ネタをつぶやく大工や、寺社建立を建前に自身の生計のための寄付を募る坊主、漢詩で格調高く魔性の女であることをほのめかす妾、うぬぼれやの侍、自分の蕎麦はうまくないけどよく売れると自虐する蕎麦屋など。洒落と皮肉を利かせた口上と隠し文字絵で江戸時代がぐっと身近になる面白本。

(マール社 2310円)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?