「BEARS」福田俊司著

公開日: 更新日:

「BEARS」福田俊司著

 60年以上にわたって野生動物を撮り続けてきた写真家が、人生の集大成として取り組んだ熊の写真集。

 日本のワイルドライフの頂点に君臨する本州のツキノワグマと北海道のヒグマをはじめ、30年以上も取材で通い続けるロシア極東のヒグマ、そして陸上最強の肉食獣であるホッキョクグマまで、その姿を追い、知られざる生態を紹介する。

 春、北関東のとある県道のすぐそばの森で、バッコヤナギの木に登り、花を食べるツキノワグマ。ほかにも、恋の季節にオスに甘えたしぐさを見せるメスや、ノウサギを獲物にした子熊と母熊のチームワークによる狩りの一部始終、台風が近づく土砂降りの中を歩く親子、ブナの木に登り実を食べる母熊から独立したばかりの若熊など。

 どの熊も、黒々と光る美しい毛並みと優しげな瞳が印象的で、近年、人間とトラブルを頻繁に起こしている獰猛なイメージとはかけ離れている。

 ツキノワグマはアジアに広く分布し、生息数がもっとも安定しているのは日本なのだが、一方でトラブルから近年では毎年3000~7000頭弱が捕殺されているそうだ。

 しかし、著者によるとツキノワグマは、決して攻撃的な生き物ではなく、むしろ穏やかで控えめ、過剰に恐れる必要はないという。

 繊細でとびぬけた嗅覚と聴覚をそなえるツキノワグマに無用なストレスを与えないよう、これらの写真はすべて車道から撮影されたものだというから驚く。

 ツキノワグマは人間を恐れながら、気づかれぬよう人の身近なところでひっそりと生きてきた動物だということが、著者の写真からもよくわかる。

 ではなぜ、人間と熊の間にトラブルが起きるのか、本書は読者に静かに問う。

 さらにカメラは、ヒグマの姿を求めて、世界屈指の密集地である知床半島を経て、カムチャツカ半島へと海を越える。

 カムチャツカ半島の川岸や湖畔で産卵のために遡上してくるベニジャケを求めて徘徊したり、カメラに気づいたのか威嚇するように咆哮するヒグマの勇壮な姿を活写。

 同じ場所で1カ月もカメラを構え続けていると、ヒグマの親子は著者を風景の一部のように受け入れ、自然な姿を見せる。

 湖にかかる虹の前でポーズをとる奇跡のような一枚があるかと思えば、突然現れたオスの気配に緊張感をみなぎらせる姿など、子熊といえども厳しい自然の摂理のなかを生きていることを伝える。

 さらにロシアの北極海に浮かぶウランゲリ島では、冬の間に巣穴で生まれたホッキョクグマの子が、母親とともに初めて外の世界に出てくる姿なども撮影。

 大自然の雄大な景色のなかで生きる熊たちの姿は神々しくもあり、彼らがこの先も生き続けられるように人間がすべきこと、そして、してはいけないことを考えさせられる。

(文一総合出版 4950円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言