著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「砂漠の教室」藤本和子著

公開日: 更新日:

「砂漠の教室」藤本和子著

 夏前に本を手に入れて、でもすぐに読み始めなかった。楽しみすぎてぐずぐずしていた。この感覚、本好きならわかってくれるだろうか。大好きな著者の紀行もの、せっかく文庫なんだし特別な遠出のお供にしよう、なんて大事にとっておいたのだ。それがいけなかった。

 10月7日、イスラエル軍のパレスチナ・ガザ地区への軍事侵攻が始まった。日を追うごとに目を覆いたくなる光景が伝わってくる。いくらなんでも酷すぎる。あぁ、いまイスラエルの本を手に取る気にはどうしてもなれない……。うなだれて本は放置され続けた。やがて年が明けて、わたしはついにページを開いたのだった。

 著者の藤本和子さんはアメリカに長く住む翻訳家、エッセイスト。わたしがとりわけ好きなのは底辺を生きる黒人女性たちの骨太な聞き書きだ。藤本さんが37歳でイスラエルのヘブライ語学校に入学したのは1977年だった。年齢も出身地もバラバラの生徒たちとの5カ月におよぶ共同生活。さらに街や砂漠で会った人々との交流が真摯な筆致でつづられている。やはり読んでよかったと思いつつ、イスラエルを受け止めきれないオロオロは続いた。

 終盤の章「なぜヘブライ語だったのか」にたどりついて、衝撃を受けた。藤本さんがヘブライ語に挑んだ理由が怒涛のように明かされるのだ。日本に強制連行された朝鮮人やナパーム弾で焼かれたベトナム人にも言及される。人間の残虐行為を「わかったふう」に取り扱わないためにはどうしたらいいのか。それを考え続ける文章は、オロオロしながら何度も読み返さなければいけない。

(河出書房新社 968円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」