著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「遠くから見たら島だった」ブルーノ・ムナーリ著、関口英子訳

公開日: 更新日:

「遠くから見たら島だった」ブルーノ・ムナーリ著、関口英子訳

 原稿を書こうとパソコンに向かったはずなのに、気づいたらくだらないコタツ記事を読んでいる。SNS上で繰り広げられる見知らぬ他人どうしの不毛な喧嘩を追っている。あぁ、なんと非生産的な時間だろう。人生は短いのに、わたしはなにをやっているのか。

 と自分にあきれているときに、このヘンテコな本に出合った。美術家ブルーノ・ムナーリが、各地で拾ってきたお気に入りの石を見せびらかすだけの写真絵本である。「石ころだらけの場所ですごすヴァカンスほど、楽しいものはない」と言うムナーリさん。海岸を延々と歩き回って好きな石を探し、拾ってきたそれらを飽きずに眺める。石は家族に見えてきたり、ミニチュアの島になったり。表面に絵を描いて遊ぶこともできる。

 最初は、石を拾ってきて愛でるなんてずいぶんのんきな趣味だなぁと思った。それこそ非生産的だと。

 でもこの本は不思議な力を持っていて、何度も読み返してしまうのだ。ただの石ころが、この世界の奥行きをぐっと広げる。読みながらそれを追体験するたびに、気持ちが晴れる。

「石は、発見に満ちた世界だ」から始まるテキストもいい。ゆったり、とぼけた味わいで何度読んでもにんまりできる。石の採集場所として文中に出てくるレヴァント付近の海岸、ガルガーノ半島、エルバ島の向かいのバラッティ海岸なんてイタリアの地名を地図で探すのも楽しい。

 あぁ、インターネットの狭い世界で無駄な時間を過ごしているくらいなら、石を探しにいくほうがどれだけ心の恵みになるだろう。楽しみはこの地球上に無数にある。(創元社 2640円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性