「ファンシー絵みやげ天国」山下メロ著

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「ファンシー絵みやげ天国」山下メロ著

「ファンシー絵みやげ」(以下ファみやげ)とは、1980~90年代に観光地で売られていた漫画風イラストを用いた子ども向け雑貨みやげのこと。

 膨大な商品があったが、人々の記憶から消えかけているのは、明確な総称が普及していなかったことが原因だろうと、著者はこの名をつけ、観光地のおみやげ屋や売店の片隅で売られている「現存個体」の保護活動を続ける。そのコレクションを紹介しながら、ファみやげが放つ時代の空気感やその楽しさを教えてくれるビジュアルガイド。

 ファみやげ最大の特徴は実用性。その登場以前は、おみやげといえば置物や人形など工芸的な商品が主だったが、ファみやげは何らかの用途を持った「道具」になっている。

 中でも圧倒的に数が多いのがキーホルダーだ。そのひとつアクリルキーホルダーの「ぼくちゃんビーチ」は、裸の男の子がサーフボードを抱えて走るイラストの背景にヤシの木が描かれている。しかし、著者が手に入れたのは海がない山梨県の清里で、「KIYOSATO」と地名入り。

 この「ぼくちゃんビーチ」キーホルダーは、主に海水浴場などの名前入りで全国的に売られていたそうだが、著者は海なし県でも売られていた事実に唖然としながらも、裏を返せば、商品のターゲットである子どもは旅先の風土には無関心だから、誰も気にしなかったのではと推測する。

 ほかにも革財布に菅原道真をキャラクター化したイラストをほどこした太宰府みやげや、戦国武将をキャラクター化した大河ドラマゆかりの地の品々、そして修学旅行先の観光地で見られるヤンキー文化商品など。ジャンル別にさまざまなファみやげを取り上げ解説。

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