著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「馬の惑星」星野博美著

公開日: 更新日:

「馬の惑星」星野博美著

「何かを求め、やっとの思いである場所へ行き、現地に着くと、突然どうでもよくなる、という悪い癖が私にはある」とか「その地域の本丸へ行く前に端っこへ行く、ということを私は割とよくする」なんて一文に、つい付箋を貼ってしまう。

 そういえばわたしも、はるばるメキシコの遺跡に出かけて、着いた瞬間「中に入らなくてもいっか」と思ったっけ。中国には5回くらい行ったけど、本丸の北京は未踏だし。などと個人的な記憶が呼び覚まされるのだ。

 星野博美さんはいつも、星野さんにしかできないやり方で世界と対峙する。本書につづられた旅もなかなかにぶっとんでいる。馬を切り口にモンゴル、スペイン、モロッコ、トルコを巡る、そのスケールの大きさよ。しかも当初は馬を愛でていた著者が、途中からその背にまたがっているのだ。ノンフィクション作家は馬上にいる! 独特の味わいにページをめくる手が止まらなくなる。

 モンゴル帝国やオスマントルコ、レコンキスタなど世界史好きの心をくすぐる記述にも付箋を貼りまくる。そして冒頭に引用したような自身の旅のスタイルにさらっと触れている箇所に出合うと、「付箋、付箋!」と、にわかに手が忙しくなるのだった。

 馬に揺られる著者に導かれてたどり着く最終章が「遊牧民のオリンピック」。これがもうめくるめく世界。ヤギの死体を奪い合い、ゴールに投げ入れる馬上競技「コクボル」なんて初めて知った。キルギスではコクボルが国技でプロリーグまであるという。この惑星のディープさに胸が躍る。

(集英社 2200円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱・三重ノ海剛司さんは邸宅で毎日のんびりの日々 今の時代の「弟子を育てる」難しさも語る

  2. 2

    矢沢永吉&甲斐よしひろ“70代レジェンド”に東京の夜が熱狂!鈴木京香もうっとりの裏で「残る不安」

  3. 3

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  4. 4

    “最強の新弟子”旭富士に歴代最速スピード出世の期待…「関取までは無敗で行ける」の見立てまで

  5. 5

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗

  1. 6

    【独自】自維連立のキーマン 遠藤敬首相補佐官に企業からの違法な寄付疑惑浮上

  2. 7

    物価高放置のバラマキ経済対策に「消費不況の恐れ」と専門家警鐘…「高すぎてコメ買えない」が暗示するもの

  3. 8

    福島市長選で与野党相乗り現職が大差で落選…「既成政党NO」の地殻変動なのか

  4. 9

    Snow Manライブで"全裸"ファンの怪情報も…他グループにも出没する下着や水着"珍客"は犯罪じゃないの?

  5. 10

    今の渋野日向子にはゴルフを遮断し、クラブを持たない休息が必要です