「京大地理学者、なにを調べに辺境へ?」水野一晴著

公開日: 更新日:

「京大地理学者、なにを調べに辺境へ?」水野一晴著

 一体どんなわけでこんなに冒険心あふれる地理学者が誕生したのだろう。水野一晴先生のホームページを見ると、学生時代は登山に打ち込み、年間100日は山にいたとある。共に「将来は地理の先生になろうね」と言い交わしていた友人が冬山で遭難。「彼の遺体を背負いながら山を下る時、彼の分もがんばって地理学者になろうと決意する」というエピソードが胸に刺さる。当時、国内には研究者がほとんどいなかった「植生地理」を専門とし、大雪山や北アルプスでのフィールドワークを重ねた。やがて山男兼学者の行動範囲はアフリカ、アンデス、ヒマラヤに及び、そりゃあもう冒険に次ぐ冒険の人生となったわけである。

 そんな水野先生の最新刊がこちら。サブタイトルに「実録・フィールドワーク」とあるように、過去の調査時の日記を読む趣がある。「フットブレーキが壊れていたため、停車するときはサイドブレーキを引いて止まるという、きわめて怖い車」でカメルーン北部を調査した第1章から始まって、ナミビアでは車が横転して骨折するやら、ヒマラヤではブリザードに行く手を阻まれてインド軍に救出されるやら、やたらと事件が多い。

 この先生についてくる教え子たちもまた一筋縄ではいかないフィールドワークに挑む。ゾウの鼻で吹き飛ばされて鎖骨を折ったり、アフリカ・レソトでネズミが走り回る小屋をあてがわれて猫を飼ってしのいだり、学会発表の資料を入れたUSBを盗まれたり……。他人が悪戦苦闘した話って、なんでこんなにワクワクするんだろう。そしてちょっぴり羨ましいのはなぜ。

(べレ出版 1870円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  3. 3

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  4. 4

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  5. 5

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  1. 6

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  2. 7

    高市自民が維新の“連立離脱”封じ…政策進捗管理「与党実務者協議体」設置のウラと本音

  3. 8

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  4. 9

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  5. 10

    引退の巨人・長野久義 悪評ゼロの「気配り伝説」…驚きの証言が球界関係者から続々