ミニシアターの感性

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「ミニシアター再訪」大森さわこ著

 秋が深まると映画館に足が向く。それも街中の小さなミニシアターへ。



「ミニシアター再訪」大森さわこ著

 ミニシアターとは封切り作品を上映する小規模な映画館。1980年代初頭に「小劇場」がミニシアターと呼ばれるようになった。本書は現代の映画的感性を育てた東京のミニシアターの興隆を知る著者が、関係者へのインタビューをふまえてたどる好企画だ。

 先駆けは60年代に登場した今はなき神田神保町の岩波ホール。80年代になると新宿、六本木、渋谷などに続々とミニシアターが登場。役所広司主演「パーフェクト・デイズ」をヒットさせたヴィム・ヴェンダース監督なども日本では東京のミニシアターブームの中で人気を得た。

 著者はこの時代に映画ライターとしての仕事を始めた、いわばミニシアターの申し子。インターネットもなかった当時、ミニコミ雑誌や冊子で作品紹介や劇場支配人のインタビュー、取材コラムなどの仕事を多数手がけた。本書には当時から付き合いのある業界人が多数登場する。バブル前後の時代、かつては地味だった六本木や渋谷が都会的な夜の文化の発信地となった。当時の情景が「映画館」という興行の拠点を経営する立場でよみがえるところが本書ならではの持ち味だ。

 コロナ禍で大打撃をこうむったミニシアターだが、なんとか復活を遂げて今に至る。往時を知らない若者世代にも薦めたい読みごたえある好著だ。 (アルテスパブリッシング 3850円)

「ミニシアター」宮本素子著

「ミニシアター」宮本素子著

 俳句は世界最古の定型詩だという。俳句人口も多く、テレビでも実作指導が人気だ。

 俳句の楽しみのひとつは互いの句を仲間同士で披露し合うこと。俳人と呼ばれる人たちは各地の結社に属し、交流しながら腕を磨き合う。

 本書の著者は東京の「鷹」という俳句結社の同人。30年近くのキャリアのあるベテランだ。

「秋の夜のミニシアターのロビーかな」

 誰にもおぼえのある情景が目に浮かぶ。

「二次会に行く輪行かぬ輪冬の月」

 週末の夜半、どこかの店の前だろうか。

「フェラーリが女を拾ふ冬木かな」

 冬の街角、ふいに色気のこぼれる瞬間。

「だんまりの男にも似て冬の滝」

 こちらは長年連れ添った夫をかたわらにした妻のひそかなため息か。

 結社を主宰する小川軽舟の序文から──「この句集を読む楽しみは、ミニシアターに通う楽しみに似ている。(略)観客の生き方にそっと寄り添うような佳品を揃えてファンを迎える。ミニシアターを出る客は、いつもと変わらない世界がいつもより親しみを増して見えることに気づくのである」。 (ふらんす堂 2750円)

「ミニシアターの六人」小野寺史宜著

「ミニシアターの六人」小野寺史宜著

 ミニシアターにはどこかセンチメンタルな要素があるらしい。大劇場とは違う小さなたたずまいが、さりげなく、映画好きだけが通う都会のかたすみというイメージがあるからだろう。本書はそんなミニシアター像をもとに書かれた短編連作小説集。

 舞台は銀座のミニシアター。昔なら名画座と称した規模の小さな劇場らしい。亡くなった監督の特集上映で昔の映画が上映されることになり、それを見にやってきた6人がそれぞれの短編の主人公という設定だ。

 20歳から70歳まで世代も育ちも異なる人物が1本の映画を仲立ちに、一瞬だけ人生を交差させる。アルバイトした劇場でたまたま監督に出会った女性のエピソードから始まって、全員の人生がぐるりと円環を描くようにしだいにつながってゆくのだ。そんな趣向を成り立たせるベテラン作家の腕。秋の夜更けに味わいたい短編集である。 (小学館 825円)

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