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「台湾のデモクラシー」渡辺将人著

 米大統領選や自民党総裁選のかたわら、台湾政治の独自性が改めて注目されている。

  ◇  ◇  ◇

「台湾のデモクラシー」渡辺将人著

 台湾問題も香港問題もそれぞれ専門家がいるが、本書はめずらしい。著者はアメリカ政治が専門の政治学者。若手のころ、米民主党の議会スタッフとして働く。そこで台湾系のメディアや外交官からのロビイングと出会い、アメリカ政治のなかで繰り広げられる中台の駆け引きや、アメリカ側にとっての中台それぞれの存在感や力学について、現場で学んだというのだ。

 本書によると、台湾の民主化運動には、アメリカ式の社会運動や選挙キャンペーンの手法の影響が大きいことがわかる。単に中国と対峙するだけでなく、国際世論を念頭に、さまざまな制度改革や情報公開などを仕掛けてゆくわけだ。

 面白いのは、そこから生まれた台湾独自のやり方。民進党は小選挙区制の候補者選びを、党幹部と党員投票の半々で決定していたが、種々の工夫を経て、小選挙区はすべて電話による世論調査で候補者を決めることにしたという。

 これで蔡英文が候補者となったのだ。

 日本では小選挙区制は失敗だったといわれているが、実は制度の導入だけでなく、制度の運用にまで工夫を凝らさないと無意味であることがわかるだろう。

(中央公論新社 1188円)

「台湾の半世紀」若林正丈著

「台湾の半世紀」若林正丈著

 いまからおよそ半世紀前、著者は希望して台湾研究の道に入った。

 そのころ中国語を学ぶ先輩に「大陸反攻」(中国本土の研究に戻ること)はいつになるんだい? と尋ねられたという。1970年代、日中国交正常化で中国熱が盛り上がった時代、台湾は学生たちの視野の外にあったのだろう。

 本書は、そんな著者の研究者人生を折々に振り返りながら、この半世紀間にわたる台湾現代史を説く。

 80年代、香港の総領事館の専門調査員だった時代にも著者は台湾に出かける。

 折から香港返還の取り決めが交わされた直後で「下からの民主化」機運が盛り上がっていたが、著者は懐疑的だったらしい。だが、香港専門家たちは著者に対して厳しく、「一国二制度」は信用できると断言したという。

 著者はいまの香港情勢を示唆しながら「不変に見えるものも変わる時には変わってしまう」と控えめだ。

 私的な歴史と世界史がひとつに合わさったユニークな現代史である。

(筑摩書房 2090円)

「半導体最強台湾」李世暉著

「半導体最強台湾」李世暉著

 米中対立のなかでアメリカが半導体産業の復活による技術覇権の回復を狙っているのは周知だろう。他方、日本はかつて半導体生産で世界一だったのが、先行きを見通す戦略的思考の欠如で、いまや見る影もない。

 そこで注目されるのが台湾。いまや世界最大の半導体受託生産地だ。本書はこの技術的優位と、台湾の置かれた地経学的条件から極東アジアの安全保障を読み解き、今後の指針を提言する。

 そのキーワードが「チェーン」。半導体サプライチェーンのほか、日~台~フィリピン~インドネシアをつなぐ第一列島線という連鎖、さらに西側の自由と正義を奉じる民主主義国の連鎖という各種の「チェーン」だ。

 いま世界は台湾に集中する先端半導体の生産を分散させようという動きも見られるが、本書の見方にも耳を傾ける価値があろう。著者は台湾政治大学で日本研究を専門とする第一人者だ。

(日経BP 2420円)

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