「僕には鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴氏

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「僕には鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴氏

 東京大学先端科学技術研究センターに、世界で初めてとなる「動物言語学」の研究室を持つ著者。野鳥のシジュウカラが“言葉”を持つことを突き止め、国際学会でも高く評価されている注目の研究者だ。

「アリストテレスが“動物の鳴き声は快か不快かを表すに過ぎず、人間の言葉のように意味を持つものではない”と述べた時代から、言葉は人間だけが持つものだと考えられてきました。しかし人間同様、シジュウカラにも厳しい自然界で生き抜くための言葉があることが分かってきたのです」

 本書は著者初となる科学エッセー。とはいえ難解さはみじんもなく、自身の手によるシジュウカラ愛にあふれたイラストと共に、時にクスリとさせられる軽妙な文章で驚きの発見がつづられている。

「大学時代に野鳥の混群と出合い、シジュウカラが〈ヂヂヂヂ〉と鳴くと餌場に集まり、天敵のタカを見つけると〈ヒヒヒ〉と鳴いて一斉に飛び去る光景を観察しました。状況によって鳴き声を使い分け【集まれ】や【警戒せよ】などの言葉を伝えあっているのかもしれない! そう直感して研究し始めたわけです」

 鳥の観察と聞くとほのぼのしたイメージだが、その過程は壮絶だ。森に3カ月間こもったときには、米以外の食料が底を突いた。しかし、買い出しに行く時間があればひとつでも多く実験したい。結局、朝はノーマルごはん、昼はお湯ごはん、夜は水ごはんという生活を続け、げっそりと痩せてしまったという。しかし、そんなことはお構いなしなのだ。

「研究を苦労と感じたことはなく、楽しいばかりです。ただ、昔は僕も人間だったのでシジュウカラの気持ちが分からず、実験が空振り続きだった頃は大変でした」

コスパやタイパとは無縁の研究の積み重ねに圧倒される

 著者は今も立派な人間である。しかし、ひたすら時間をかけて観察していくうちにシジュウカラに似てきて、彼らの感覚が分かるようになり、実験もうまくいくようになってきたという。世界的な研究者とはこういうものか。

 実験方法も非常にユニークだ。

「注目したのが、ヘビを見たときにだけ発する〈ジャージャー〉という声。恐怖の感情ではなく【ヘビ】を意味することを証明するため、普段はヘビに見えないものを〈ジャージャー〉と合わせることでヘビと見間違えてもらうという方法を編み出しました」

 本書では、実に4年にわたる実験の末に〈ジャージャー=ヘビ〉を証明する様子が語られている。

「動物は人間の言葉を理解できるか。その研究はされてきました。しかし、人間の感覚を押し付けて擬人化するのではなく、共通点と相違点を正しく理解することで見える世界が広がっていく。僕にとって鳥を観察することは違う価値観を持った他者を知ろうとすることなのです」

 ほかにも、シジュウカラが文章を話すことなど驚きの研究が明らかにされていく本書。コスパやタイパとは無縁の研究の積み重ねに圧倒される。

 「本書で僕が調査したことを知ってもらい、自然の見方が広がったり、世界の理解度が深まる助けになったりすればうれしい。僕自身は、シジュウカラの研究が深まるほど知りたいことが無限に出てきているので、一生シジュウカラの言葉だけを研究し続けそうです(笑)。また新たな発見をお伝えしたいですね」 (小学館 1870円)

▽鈴木俊貴(すずき・としたか)1983年東京都生まれ。東京大学准教授。動物言語学者。日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本動物行動学会賞など多数受賞。2025年の英・動物行動研究協会でアジア人初の国際賞を受賞予定。

【連載】著者インタビュー

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