「時間治療」大塚邦明氏

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「時間治療」大塚邦明氏

「健康のために規則正しい生活がいい」とは誰もが知っているが、なぜ、規則正しい生活習慣がいいのか。睡眠時間を十分確保すれば何時に起床してもいいのでは? 栄養のバランスに気を配っていれば何時に食べても差し障りはないのでは? と思うだろうが、どっこいそうではないらしい。

「地球上全ての生物には体内時計が備わっており、その細胞には時を刻む時計遺伝子があります。実はこの“時計”の乱れが引き金となり、糖尿病や心臓病などの生活習慣病や抑うつ、認知症などを発症することがわかってきたんです」

 本書は、50年以上医師として活躍してきた著者が自分の体験も交えながら、体内時計のメカニズムがどのように健康と病気に影響を与えるか、また、従来の医療の視点にはなかった、生体リズムという「時間」に着目した「時間治療」の重要性をわかりやすく紹介する。

 著者によると、病気になりやすい「魔の時間帯」というものがあるという。

「たとえば、朝は心筋梗塞や脳梗塞、くも膜下出血、不整脈が生じやすい魔の時間なんです。ごく簡単に言うと、夜間の副交感神経から交代して交感神経の働きが強まり、このとき血管を収縮させて血圧や心拍数が上昇。各臓器の酸素消費量も急激に増大して負担がかかります。狭心症の発症は約7日の生体リズムに関係し、血液が流れにくくなる月曜にもっとも多いと報告されています」

 一方で、薬にも効果がある時間や量が分かってきているそうだ。

「以前、私は高知県で高血圧や狭心症の患者さんの治療をしていたのですが、東京の病院でも高知と同じ病気の患者さんに同じ薬を同じ量使ったのに、なぜか血圧が下がらない。そこで増量してやっと治療に成功したことがありました。地方と都会とでは生活習慣が異なることから生体リズムの位相の違いもあることに気付き、改めて時間治療の必要性を感じましたね。近年では、がん治療についても各患者の生体リズムにマッチした抗がん剤の投薬時間を工夫するなど研究が進んでおり、その効果が期待されています」

 現代人の健康被害は30年前に比べ2~3倍に増大している。ライフスタイルが変化し、本来、眠っている深夜が起きている時間に変わったことも一因だと著者は指摘する。

「夜間でも明るい照明のコンビニに行ったり、パソコンやスマホを長時間使ったりしています。長時間の夜勤や平日の睡眠不足を一気に取り戻そうと週末の休日に朝寝坊をする人も多い。これらの社会的ジェットラグ(時差ボケ)が健康を阻害してしまうのです」

 健康な体になるためには、ずれてしまった体内時計を約24時間リズムに近づけることが大切だ。

「まず朝起きたら光を浴び、朝食を取ること。これにより体内時計のずれがリセットされます。食事は1日3食で、特に朝食はしっかり、夕食は控えめに。和食が理想的ですが、糖質を調え、たんぱく質と野菜(食物繊維)を取るようにします。運動は若者世代では朝、高齢者は夕方がお勧めです」

 本書ではほかにも、アンチエイジングに関することや、オーダーメード医療など最新の研究も紹介する。

 (講談社 1210円)

▽大塚邦明(おおつか・くにあき) 1948年、愛媛県生まれ。72年、九州大学医学部卒業。東京女子医科大学名誉教授。東京女子医科大学特定関連施設戸塚ロイヤルクリニック所長。著書は「病気にならないための時間医学」健やかに老いるための時間老年学」など多数。


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