よりまし堂(日野・南平)「毒にも薬にもならない本は置きません」人文系本づくりのプロが選書
高幡不動の駅前は賑やかだが、隣の南平駅周辺はずいぶんのんびり。なので、すぐに見つかった。4月にオープンした「本屋とキッチン よりまし堂」の案内ボードが。
55平方メートルとゆったり。手前に本棚があり、奥が飲食店スペースだ。飲食担当の小川佳代子さんが、「車椅子OKのバリアフリー物件を探したんです。子どもにおにぎりをあげるようなスナックをやりたくてね」とおっしゃり、「若者応援ペイフォワード券」なるものが貼ってあるのを発見。大人が300円の券を買って店に置いておき、25歳以下がここでの飲食に自由に使える仕組みだそう。素晴らしい!
「いつか本屋ができたらと漏らしていたら、市民活動仲間の小川さんが『店、一緒にやる?』と声をかけてくれて」と、本屋担当の岩下結さん。「今より少しましな世の中にしたい」と名付け、家賃をシェアしているという。
新潮社の本を一時的に棚から外しています
最初に絵本「クジラがしんだら」が目につき、左の棚をたどっていくと、戦争、ケア、辺野古、関東大震災朝鮮人虐殺、ジェンダー、マイノリティーなどがテーマの本がずらり。
「日刊ゲンダイさん、よく紹介してくださいました」って、なんのことかと思ったら、岩下さんの前職は大月書店の編集者。去年まで20年間で200冊以上を世に出してきた。目下はフリー編集者。人文系の本作りのプロの手による棚だったのだ。
「男社会がしんどい」「男尊女卑依存症社会」「学校の『男性性』を問う」……。男性学系の本が多いと思いきや、「『男らしさ』から自由になるためのレッスン」と副タイトルされた「これからの男の子たちへ」を手に取り、「担当して2020年に出した、弁護士の太田啓子さん著のこの本、大ヒットしました。私も自分事だと認識。皆さんも気づいてきているのでは?」と岩下さん。
1500冊ほど在庫。「毒にも薬にもならない本も、ヘイト本も置かない」ときっぱり。右手の棚には、エッセーや小説が並ぶが、「著者の社会的発言を考慮」して選んでいるとか。
すごっ。と思ったのは、「『週刊新潮』誌による作家・深沢潮さんへの差別攻撃に抗議して、新潮社の本を一時的に棚から外しています」との張り紙。「新潮社、いい本をいっぱい出しているんですけどね」と岩下さん。筋、とことん通っています。
◆日野市南平7-6-41 1階/京王線南平駅南口から徒歩1分/午前11時~午後6時半、月曜休み(10月から水曜休み)
ウチらしい本
「お寺に嫁いだ私がフェミニズムに出会って考えたこと」森山りんこ著 地平社1980円
「自分が編集した本を選んですみません(笑)。著者は、禅宗のお寺の奥さんになって20年。お寺の業界では、妻は家族ではなく“寺族”で、夫を支え、お寺に尽くすのが責務とされるんですね。なにかおかしいとずっと思ってきて、韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで、『全然違う社会の話なのに、自分とシンクロしている』と気づく。その過程も面白く、多くの人に読んでほしいです」