「ままならぬ顔・もどかしい身体」山口真美著

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「ままならぬ顔・もどかしい身体」山口真美著

 コロナ禍が過ぎ、欧米ではいち早く多くの人がマスクを外したが、日本ではその後もマスクを着けている人が多かった。欧米ではマスクへの忌避感が根深く、公共の場で顔を隠すことを禁じる「覆面禁止法」があるほどだ。一方、日本ではサングラスの着用に違和感を感じる傾向が強いのに対して、欧米では寛容。これは、欧米人が口もとで表情を読むため、マスクで口もとが隠れるのを不快に感じ、日本人は目もとで表情を読むので、サングラスで目もとを隠されると不快に感じるのだという。このように顔は重要なコミュニケーションツールであり、身体とも大きく関わっている。

 顔研究者である著者は、2017年に「顔・身体学」という研究チームを立ち上げ、いざこれからというときにがんを宣告される。本書は、がんの罹患によってくしくも「自身の身体」を再構築せざるを得なくなった著者が、自らの闘病体験をつづりながら、身体感覚が心に及ぼす影響、ルッキズム、ジェンダー問題、病と死など、他者との関わりの中で遭遇する「顔や身体にまつわるさまざまな痛み、矛盾」を取り上げている。

 日本では履歴書に顔写真を貼るのは当たり前だが、欧米では採用に当たって顔写真の要求を禁ずる国も多い。フランスの調査で、学歴・職歴が同じで顔写真の異なる履歴書を送ったところ、アラブ人やアフリカ出身の黒人よりも白人の応募者を優遇した企業が70%を占めた。そもそも「人は外見を区別する生物」であり、生存していくために必要なものなのだが、区別が差別に転じた場合にさまざまな問題を引き起こしていく。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)から生ずるルッキズムもそのひとつだ。

 そのほか、顔研究者である著者が顔面神経麻痺になったことの戸惑いと当事者になったことでの発見など、体験と理論がうまく絡みながら「顔・身体学」の最前線へといざなっていく。 〈狸〉

(東京大学出版会 2420円)

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