ヘイト抗議で版権を引き揚げた話題の小説「BUTTER」柚木麻子著/新潮文庫(選者:佐高信)

公開日: 更新日:

「BUTTER」柚木麻子著/新潮文庫

 オビに「イギリスで日本人初の3冠達成」「全世界累計100万部突破」と書かれたこの作品を読んだのは、「週刊新潮」の連載コラムでヘイトな中傷を受けた作家の深沢潮の抗議に連帯して、柚木がこの作品の版権を引き揚げ、河出書房新社に移したことについて「東京新聞」からコメントを求められたからだった。

 4月29日付の同紙で私は「売れるからといって多くの出版社がこれまでもヘイト本を出版してきた。コラム問題を通じて、新潮社だけでなく差別を再生産してきた各出版社の責任も問われるべきだ」と答えた。

 しかし、ともかく作品を読まなければと手に取ったが、濃密な小説で興奮した。近来これほど夢中になってページを繰った作品はない。

 何人かの男を殺した容疑で逮捕された梶井真奈子に週刊誌の女性記者が会いに行く。

「私は亡き父親から女は誰に対しても寛容であれ、と学んできました。それでも、どうしても許せないものが二つだけある。フェミニストとマーガリンです」

 梶井にこう言われた記者は、「バターはエシレというブランドの有塩タイプを使いなさい」と畳みかけられる。

“毒婦”と呼ばれた木嶋佳苗をモデルにしているが、それを忘れさせるほどに重厚な小説となっている。

 料理に必要なのは愛情や優しさではなくてパワーであり、ロックだという断言にも、なるほどとうなずかされる。

 ところで、柚木が版権を移したことに、たとえば櫻井よしこらの「週刊新潮」連載執筆陣は何も反応しないのだろうか。

 先日発表された「国境なき記者団」の「報道の自由度ランキング」で日本は62位だった。トランプのアメリカが64位である。2010年の民主党政権時に11位になったことがあるが、62位の現在は「報道の自由度」がないと言ってもいい。つまり、権力批判がほとんど行われていないということである。ヘイトが横行し、タブーが存在している日本は国際的に劣等であり、それを恥じて、柚木は新潮社から版権を移したとも思われる。

 やはり「週刊新潮」に連載している五木寛之は、かつて、池田大作が「創価学会を斬る」の出版を妨害したことに反発して、野坂昭如らと共に学会系の雑誌等への執筆を停止した。五木は深沢や柚木の抗議をどう思っているのだろうか。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐藤二朗vs橋本愛騒動が直撃! フジドラマ“出たくない俳優”&“見たくない視聴者”の二重苦

  2. 2

    趣里が7月期テレ朝ドラマで出産後初主演 続く水谷家との「蜜月」で三山凌輝にも復活説

  3. 3

    萩本欽一〈24〉相方の坂上二郎さんとは「遊ばない・食事しない・夢を語らない」を徹底した事情

  4. 4

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ

  5. 5

    “キムタク効果”見込んだ吉野家の戦略は残念な結果に…ファンの間に沸き起こる「藤田ニコル復帰待望論」

  1. 6

    佐藤二朗騒動の余波!「福田組」の長澤まさみへの“ハラスメント”舞台挨拶の悪ノリ動画が再注目…女性視聴者は嫌悪

  2. 7

    ソフトバンク「佐々木麟太郎シフト」着々…同ポジションの中村晃引退、山川穂高二軍塩漬けが伏線

  3. 8

    「夫婦別姓刑事」とフジテレビの時代錯誤…“看板に偽りあり”のタイトルと「超・年の差婚」設定への嫌悪感

  4. 9

    萩本欽一〈25〉「車椅子でも絶対に明治座に出す」脳梗塞で左半身麻痺の坂上二郎さんを奮い立たせたひと言

  5. 10

    維新また猿芝居…国会空転トップ会談で定数削減法案に“白旗”も「今時点で取り下げない」と強がるワケ