著者のコラム一覧
田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

島倉千代子をスターダムに押しあげた作詞家・野村俊夫

公開日: 更新日:

■「東京だヨおっ母さん」が大ヒット

 野村の最大のヒット曲といえば、1957年に出した「東京だヨおっ母さん」である。「久しぶりに手をひいて」と始まるこの曲の作曲は、残念ながら古山裕一のモデルの古関裕而ではなく船村徹。唄はデビュー3年目、19歳の島倉千代子だった。レコード販売枚数150万枚という正真正銘の大ヒットとなった。

 この曲を出す前年、船村は美空ひばりに「波止場だよお父つぁん」(作詞・西沢爽)という曲を提供している。これがヒット。気をよくした日本コロムビアのディレクターが船村に「おっ母さん」バージョンを島倉に歌わせてみたいと、再び、船村に作曲を依頼したのである。二匹目のドジョウを狙うディレクターの調子の良さは、「エール」で登場するコロンブスレコードの廿日市誉(古田新太)を彷彿させる。そして、詞を担当することになったのが野村だった。

 だが、野村の書く詞は「お父つぁん」を「おっ母さん」に代えるだけの軽いノリではなかった。1942年にガダルカナル島で28歳の若さで戦死した弟、それを悲しむ母の姿を思い浮かべながら筆を走らせたのだ。

 1番の歌詞では二重橋、3番では浅草の情景が描かれるが、この詞の肝はなんといっても2番だろう。母を九段坂に連れていき、神社を詣で、「逢ったら泣くでしょ」と歌う。島倉千代子のか細い震えるような声が野村の詞にピッタリ重なり、聴く者の心を打つのである。

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