松尾潔
著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

シモーヌ・ヴェイユの生涯描く映画に奮い立つ 世界の地獄化を止める唯一の方法は「声を上げること」

公開日: 更新日:

 とりわけ映画評論家・秦早穗子さん(来週めでたく92歳!)のご寄稿は読んで心がヒリヒリした。いわく「外国映画を見る時、人種問題、宗教問題を抜かして、感情面だけで判断すると見当違いになりがち」と。人間性も詞の世界もろくに知らぬまま洋楽アーティストに耽溺していた若き日の自分に読ませたい!

 ホロコーストを生き延びてもなおシモーヌの苦難は続いた。「生存者や目撃者は、沈黙を貫くことを強いられた」という台詞があった。「『黙って生きろ』という空気が漂っていた」とも。社会はそんなシビアな要求を誰かの口からではなく「空気」に語らせようとした。でもシモーヌはその空気に抗い続けた。圧倒的な教養と勇気を備えた彼女の口を封じることは誰にもできなかった。黙することのない彼女にフランスの人びとは熱狂した。

 これを外国の古い話だと割りきることはできない。それどころか、2023年の日本を生きるわれわれにこそ必要な教訓ではないか。世界の地獄化を止める唯一の方法は、声を上げることなのだ。この春から言いつづけてきたことを、ぼくは何度でも言いたい。勇気をもって声を上げよう、と。たとえあなたは黙って逃げきることができたとしても「声を上げてもムダ」という諦めを下の世代に残した罪からは逃れられないのだから。

 監督は『エディット・ピアフ』のオリヴィエ・ダアン。主役のシモーヌは、10代から30代をレベッカ・マルデールが、40代から70代を生前のシモーヌ本人と深い交流があったエルザ・ジルベルスタインがそれぞれ熱演している。必見の一作。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    「悠仁さまに一人暮らしはさせられない」京大進学が消滅しかけた裏に皇宮警察のスキャンダル

    「悠仁さまに一人暮らしはさせられない」京大進学が消滅しかけた裏に皇宮警察のスキャンダル

  2. 2
    香川照之「團子が後継者」を阻む猿之助“復帰計画” 主導権争いに故・藤間紫さん長男が登場のワケ

    香川照之「團子が後継者」を阻む猿之助“復帰計画” 主導権争いに故・藤間紫さん長男が登場のワケ

  3. 3
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  4. 4
    巨人・菅野智之の忸怩たる思いは晴れぬまま…復活した先にある「2年後の野望」 

    巨人・菅野智之の忸怩たる思いは晴れぬまま…復活した先にある「2年後の野望」 

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

    鹿児島・山形屋は経営破綻、宮崎・シーガイアが転売…南九州を襲った2つの衝撃

  2. 7
    「つばさの党」ガサ入れでフル装備出動も…弱々しく見えた機動隊員の実情

    「つばさの党」ガサ入れでフル装備出動も…弱々しく見えた機動隊員の実情

  3. 8
    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

    女優・吉沢京子「初体験は中村勘三郎さん」…週刊現代で告白

  4. 9
    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

    ビール業界の有名社長が実践 自宅で缶ビールをおいしく飲む“目から鱗”なルール

  5. 10
    悠仁さまが10年以上かけた秀作「トンボの論文」で東大入試に挑むのがナゼ不公平と言われるのか?

    悠仁さまが10年以上かけた秀作「トンボの論文」で東大入試に挑むのがナゼ不公平と言われるのか?