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増田俊也小説家

1965年、愛知県生まれ。小説家。2012年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。現在、名古屋芸術大学客員教授として文学や漫画理論の講義を担当。

「時代と寝た男」加納典明(8)「このおっさん、俺にはちょっとわけわかんねえな」って

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取材で行ったその日に「ここ来ていい?」

増田「なるほど」

加納「最初は角川書店の『野性時代』だったかな。いや、違うな、なんかの取材で動物王国へ行ったんだよ。そん時に彼は俺を案内してくれたわけよね。王国内もそうだし、あのあたりのエリアを」

増田「浜中町ですね。霧多布湿原*の」

※霧多布湿原(きりたっぷしつげん):北海道の釧路と根室のちょうど真ん中あたりの太平洋岸に拡がる大湿原。長さ9km奥行き3kmあり、1993年にラムサール条約登録湿地となった。釧路湿原に較べ花の種類も量も多く、季節には白・赤・黄色・青などの花が大量に咲き誇る。

加納「そう。北海道の東部、釧路のほう。もともと湿原ですごく自然が豊富なんだよ。そこでいろいろ見せてもらって、とにかく印象的だった。ある程度情報は持ってたんですけど、僕は名古屋の街で少年時代を暮らし、青年時代を東京に出て暮らし、ずっと大都会にいたわけですよ。日本もあちこち、世界もあちこち、写真撮影のロケーションでいろんなとこ行ってるじゃない。だから大抵のことでは驚かないんだけど、俺のそん時の精神状態ーー東京で疲れてしまってた精神状態と同時に、染みてきたものがあった」

増田「それで『ここに来たい』と」

加納「そうなんです。だから原野で暮らしてうんぬんっていうのは、一回どっかでやってみたいというのはあったんですね。それでもう取材行ったその日に『畑さん、俺ここ来ていいですか?』って聞いたら、あの人もぶっ飛んでて『いいよ。どうぞ』って」

増田「そいつは話が早い(笑)」

加納「俺も話が早いけどムツさんも話が早い。だからすぐに決まっちゃった」

増田「普通ありえないですもんね。それだけその土地に魅力があった」

加納「うん。それ以上に畑正憲という人物なんだよ」

増田「畑さんにそれだけの魅力があったんですね」

(第9回につづく=火・木曜掲載)

▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。

▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。

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