「時代とFUCKした男」加納典明(8)「このおっさん、俺にはちょっとわけわかんねえな」って
小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
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増田「ムツゴロウ王国*に移住したのは若い時ですよね。典明さんがまだ30代の頃ですよね」
※ムツゴロウ動物王国:1972年、畑正憲が北海道の浜中町に設立した自宅住居を含む動物飼育施設。面積は450万平方メートルあり、51万平方メートルある東京ディズニーランドの9倍という広大さを誇る。
加納「うん。そう」
増田「36歳とか37歳とか。それぐらいですね。当然カメラは持っていかれてると思うんですが。撮影はあまりされてないですか。ムツさんとか動物の」
加納「ほとんど撮らなかったんだよ。というより撮ることができなかった。おそらく写真疲れしてたんだな。北海道へ行った原因のひとつが写真疲れなんだよ。東京でめちゃくちゃ忙しくて」
増田「『FUCK』で売れて以来」
加納「そう。写真以外にも役者やったり芸能活動やったりテレビ出たり、いろんなことをやって。小説書いてくれとか言われて小説も書いたの、俺」
増田「そうでしたね」
加納「そのうち疲れ果ててしまってね。仕事のしすぎで。都会生まれの人間っていうのは、一度は原野で、大自然の中で暮らしてみたいみたいな願望がどっかにあるはず。それを動物王国行くことによって果たした、と。結果論でもあるけれども、それはひとつある」
増田「なるほど」
加納「畑正憲という人物に非常に興味を持ったということがきっかけなんだけどね。最初は雑誌の取材で会ったのかな。俺は写真家だから対象の相手ってのは、やっぱり写真で見るっていうか、写真顔っていうか、感性とか考え方とか、非常に多様な面で相手を受け取ろうとする。
例えば増田さんを僕が撮るとしたら、誤解も含めて『多分こんなイメージだろう』と、あるいは『こんな考え方だろう』と、あるいは『こういうヒストリーだろう』と、勝手に解釈して撮っていくわけです。それが、あの人、俺はちょっとこのおっさんわけわかんねえなっていうのがあったわけだよ」