著者のコラム一覧
天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

心臓手術には「勇気ある撤退」を決断する場合もある

公開日: 更新日:

 その時点で手術が理想通りいかなかったとしても、術後管理を徹底すれば改善が期待できます。看護師とともに付きっ切りで管理に力を注ぎ、リハビリを経て35日後に退院の日を迎えました。もちろん、患者さんとご家族にはきちんと行った手術の説明をして、納得していただきました。

 その患者さんは手術から4年半後、畑で農作業中に脳梗塞で倒れて亡くなったと連絡をもらいました。残されたご主人が「畑仕事に戻ることができた。手術してよかった」と話されていたことも伝え聞きました。あのときの「勇気ある撤退」は、やはり意味があったと思わされました。

 経験と技術を積み重ねてきた今では、手術から完全に撤退するケースはほとんどありません。不測の事態が起こっても可能な限り最善の処置を行い、マイルドに着地させることができます。

 ただ、自分の経験と技術に照らし合わせ、「できること」「できないこと」をしっかり把握していなければ、撤退も着地もできず「手を尽くしましたが及びませんでした」と家族に謝罪する姿が浮かぶだけになります。結果として、曖昧なまま手術を進めたことで自分の手に負えなくなり、どこかの大学病院であったような話になる可能性もあります。治療と業務上過失の分岐点はどの症例にも存在します。その境をしっかり把握できる外科医が一人前といえるでしょう。

【連載】天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」