田中幾太郎
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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。

患者数日本一 順天堂医院「満員電車状態」でのコロナ対策

公開日: 更新日:

(取材・文/ジャーナリスト・田中幾太郎)

 エスカレーターを上がっていくと、一流ホテルのロビーと見まがうゴージャスな空間が広がっている。国内でもっとも人気のある医療施設のひとつ、順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京・文京区)の外来フロアである。ただ、以前とは少しだけ雰囲気が違う。入口の手前にアルコール消毒台、その横に2台の検温カメラが置かれ、コンシェルジュらスタッフたちが来訪者の様子をこまめにチェックしている。

 だが、違和感を覚えたのは入口のあたりだけだった。外来フロアの中に足を踏み入れると、新型コロナウイルスが猛威をふるいだす前と変わらない光景が目に飛び込んでくる。その混雑ぶりは、まるで満員電車のようだ。

 実は、順天堂医院は日本で一番、外来患者数が多い病院なのである。2019年度(19年4月~20年3月)の1日平均外来患者数は4456人。全国2位の東京女子医科大学病院(3780人)を大きく引き離し、断トツの数字だ。

 では、規模が一番大きいかといえば、そうではない。一般病床数は1036床で全国14位。もっとも多いのは藤田医科大学病院(愛知県豊明市)の1384床だ。なお、順天堂医院と隣接する東京医科歯科大学医学部附属病院は716床で1日平均外来患者数は2256人。JR御茶ノ水駅を挟んだ位置にある日本大学病院は320床、855人である。

■蘭方医が開いた日本最古の病院

 なぜ、これだけ順天堂医院に患者が集まるのか。最大の理由は、歴史に裏打ちされたそのブランド力である。ここは日本最古の病院なのだ。同院の前身は蘭方医の佐藤泰然が1838年に開いた医学塾。以降、医育機関を併設した医療施設として発展した。

 メディアもブランド力の向上を後押ししている。新聞や雑誌の病院ランキングでは常に上位。村上もとか原作のコミックをドラマ化した「JIN-仁-」(TBS系)の影響も大きい。脳神経外科医(大沢たかお)が幕末にタイムスリップして、多くの人々を救うというストーリー。この主人公が現代において勤務しているのが順天堂医院とおぼしき病院なのである。実際に、同院でロケが行われた。また、順天堂の学是となっているのも「仁」の一文字。「人在りて我在り、他を思いやり、慈しむ心」という意味だ。

 昨年も、このドラマを再編集した特別編が6回にわたって放送された。最初の放送から10年以上もたっているにもかかわらず、すべての回で視聴率2桁を記録。順天堂医院のイメージアップに少なからず貢献した。

■全スタッフでコロナ関連情報を共有

 根強い人気を持つ病院とはいえ、コロナ禍のもとでも相変わらず、たくさんの患者が押し寄せる状況は、不安にならざるをえない。大丈夫なのだろうか。

「コロナの問題が出始めた当初から、病院を挙げて万全の対策をとっている」と証言するのは同院の内科系の中堅医師だ。

「毎週、髙橋和久院長が『コロナをともに落ち着いて考える』と題するメールを全スタッフに送り、情報の共有化を図るようにしたのです。最新のコロナ事情から、病院内の細かい動向まで、多岐にわたる情報をわかりやすくまとめたもので、これを読めば、状況がすぐに把握できる。スタッフ一人ひとりが正確な情報を持ち、コロナ対策への取り組みの意識も非常に高まったのです」

 一見、3密状態が続いているように映る順天堂医院だが、これまで1年以上の間、クラスターはまったく起きていない。情報の共有化が効を奏している証拠だろう。しかし、順天堂グループ全体を見ると、必ずしも総本山の順天堂医院のようにうまくいっているわけではない。

関連3施設でクラスターが発生

 順天堂大学医学部附属病院は順天堂医院のほかに、静岡病院、浦安病院、順天堂越谷病院、順天堂江東高齢者医療センター、練馬病院がある。このうち、静岡病院、練馬病院、浦安病院の3施設でクラスターが発生している。

 感染者の人数がもっとも多かったのは、東京・練馬区最大の拠点病院の練馬病院。昨年9月末から10月上旬、7階の病棟でクラスターが発生。患者、医師、看護師、技士ら計60人が新型コロナウイルスに感染した。10月中旬から下旬にかけても、別の病棟で計12人の感染者が判明。病院側は感染者の出た病棟の職員と入院患者のPCR検査を実施。11月6日までに全員の陰性を確認し、同日、収束宣言を出した。

 その対応を巡って疑問の声が噴出したのは、伊豆の国市にある静岡病院。最初にクラスターが発生したのは昨年10月末。病院側はホームページで医師ら6人の感染が判明したと発表したが、その後、11月初めにかけて、医師、看護師、事務系スタッフ、患者の感染が判明。計19人の感染者が出た。

「病院は経緯など、細かい情報はほとんど明らかにしなかった。県は記者会見を開くように再三、求めたのですが、病院側はホームページ上で情報を公開していくからその必要はないと突っぱねたのです。しかし、周知徹底するためにも、すみやかに会見をするべきだった」(静岡県関係者)

 同院では今年1月下旬にも、クラスターが発生。入院患者、医師、看護師の計8人が感染した。

「順天堂という名前にあぐらをかいて、“上から目線”に終始した結果、再度のクラスターを招いたのではないか」と県関係者は非難しながら、こう続ける。

「順天堂医院でクラスターが起きていないという現実や、練馬病院での素早い対応を聞くと、東京との温度差を非常に感じる。順天堂を統括する立場にある責任者は、もっとまんべんなく、各病院に目を光らせてほしい」

■トップは最高責任者の座に17年

 全部で6つある順天堂大学医学部附属病院を統括する最高責任者は、「学校法人順天堂」の理事長を務める小川秀興氏。医学部長、学長を経て、04年に理事長に就任した。

「赤字におちいっていた順天堂を徹底したコスト削減と卒業生からの協力金集めで黒字に転換させた。いわば、経営立て直しの最大の功労者です」(元事務系職員)

 経営手腕だけでなく、人格者と評する声も聞かれる。順天堂大OBは次のように話す。

「皮膚科医の小川先生は70年代半ばから毎年、1~3カ月間、皮膚感染症の多いタイに渡り、現地の医師の指導に当たってきたのです。純粋に使命感からの行動で、自分のキャリアにプラスになるかどうかなど、まったく考えていなかった」

 だが、いくら最大の功労者で、人格者だといってもトップの座に17年間も座り続けていることに対しては、批判も出始めている。順天堂はオーナー企業ではないのである。

「年齢のことはあまり言うべきではないかもしれませんが、小川先生は今年9月で80歳。正直、全体に目を配ることができなくなっている。そろそろ、ご勇退する時期だと思いますが、内部に誰も進言できる人がいないのが今の順天堂の泣きどころです」(前出・順天堂医院中堅医師)

 そうした中、順天堂ブランドを傷つける事件も起きている。今年1月末、順天堂医院脳神経内科のT先任准教授が逮捕されてしまったのだ。スニーカーの先に小型カメラを仕込み、信号待ちしていた女子高生のスカートの中を盗撮。押収されたスマホには、盗撮画像が多数保存されていた。

「T医師はパーキンソン病治療の世界では知られた存在。順天堂はこの分野でトップレベルにあり、病院の売りになっていただけに、ダメージは小さくない」(同)

 国内最高の人気を誇る病院も、タガを締め直す時期に来ているようだ。

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