田中幾太郎
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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

東大病院はコロナ治療を後回し 利益至上主義の根深い病巣

公開日: 更新日:

(取材・文=田中幾太郎/ジャーナリスト)

 3月のとある平日の昼下がり、東京大学医学部附属病院(以下「東大病院」、東京・文京区)の正面玄関を入ると、「本日の予約患者数3218人」と書かれた看板が目に入る。

「このところ、来院する患者がかなり増えている」と話すのは同病院の事務系スタッフのひとり。2010年代前半までは1日平均外来患者数は3000人を超えていたが、ここ数年は2000人台が続いている。19年度(19年4月~20年3月)は2784人だった。

 外来診療棟の1階フロアに足を踏み入れると、受付や診察を待つ患者たち、支払手続きに並ぶ患者たちでごった返している。まさに3密状態。新型コロナウイルス対策が十分にとられているようには見えない。マスク着用と手指の消毒以外、注意喚起を促すような指示は見当たらず、特別な対策も打ち出されていない。コンビニに入店するのと、ほとんど変わらない感覚なのである。

「いつ、クラスターが起こってもおかしくないと、職員たちも戦々恐々としています」と事務系スタッフは不安を隠さない。

「それ以前の問題」と話すのは同病院の内科系診療科の医師。「国が一丸となってコロナ対策に取り組もうとしている時に、医療機関としての貢献度があまりにも低い」というのだ。

■「特定機能病院」なのにコロナ病床はわずか8床

 東大病院は高度先端医療を提供する「特定機能病院」に指定されている。大学病院を中心に全国で86病院、都内では16病院がその承認を受けている。「コロナから住民の命を守る砦。特に重症患者対策では最重要拠点」(厚生労働省医政局職員)という位置づけだ。ところが──。

「東大病院には重症者病床が54床(集中治療室34室を含む)あるのに、そのうちコロナ患者用に充てているのはわずか8床。それ以上増やすと、コロナ以外の重症患者への対応が難しくなるというのがその理由ですが、いかにせん、少なすぎる。アリバイ的にコロナに対応する姿勢を見せているだけと言わざるをえない」

 東大病院の経営姿勢に不信感を持ち始めているこの内科系医師は、その背景に同病院の儲け主義が見え隠れすると指摘する。

「カネ儲けにつながることには積極的に取り組む一方、マイナスになるようなことはやりたがらないのです。コロナ患者を多く受け入れれば、そこに人手をとられ、安全対策にもコストがかかる。さらには、もっと高い治療費が見込める患者も失うことになり、結果的に減収につながってしまう」

特別室の差額ベッド代は23万1000円

 東大病院が利益至上主義に傾くきっかけとなったのは、04年度からスタートした国立大の独立行政法人化。国が大学に支給する運営費交付金が毎年、減らされていった。大学側としては、経費を抑えると同時に、自ら稼ぐ道を見つけなければならなくなったのである。そこで、テコ入れしたのが病院部門だった。大学にとって、附属病院は恒常的に収入が見込める唯一の事業だからだ。

 独法化を前に竣工した入院棟Aの病室最上階(14階)にある特別室Aの差額ベッド代は当初、26万2500円もした。一泊すれば、ホテルの宿泊とは違い、翌朝早くに退院しても2日分の料金が発生。差額ベッド代は健康保険がきかないので、52万5000円かかることになる。

 あまりに高額だったため、稼働率が上がらず、まもなく18万9000円に大幅値下げした。現在、特別室Aの差額ベッド代は23万1000円になっている。

■東大ブランドの威光で上級国民からカネを引き出す

「上級国民を相手に、その懐から、いかにカネを引き出すかに腐心しているのです」(内科系医師)

 その最たるものが、メディカル事業を展開するハイメディック社と組んで行っている会員制検診ビジネス。入会金330万円、月会費5万600円を支払えば、会員資格期間15年の間、毎年1回、検診を受けられる。払い込む総額は1240万8000円。検診1回当たりの費用は82万7200円である。

「こうしたビジネスが成り立つのは、東大ブランドの威光があるからでしょう。ただ、果たして、実力がそれに見合っているかとなると、首を傾げざるをえない。マスコミはやたらと、東大病院を『最高峰の病院』と持ち上げますが、ずいぶん前から、その称号はこけおどしだと感じています」

 こう話すのは東大病院の外科医。そのレベルに疑念を抱いたのは2012年2月のことだった。当時、天皇だった上皇明仁さまが同病院で冠動脈バイパス手術を受けられた時である。執刀したのは東大病院の医師ではなく、順天堂大の天野篤教授だった。

「天野先生は日本で5本の指に入る心臓外科の名手。万全を期したつもりなのでしょうが、それほど難しい手術ではなかった。病院幹部たちが自分のところの心臓外科医を信用できないというのでは、あまりに情けない」(同)

診療も医療技術も研究もパッとせず

 東大医学部(理Ⅲ)は国内の学部で、もっとも偏差値が高いエリート集団。一方、天野医師は3浪して日大医学部に入り、いくつもの病院を渡り歩き、技術を磨いた叩き上げだ。

「東大病院は研究にばかり力を入れ、診療を軽視していると批判されてきた。たしかに、昔からそうした傾向があるのは事実ですが、以前は野武士のような実践派の先生も少なくなかった。でも、最近は突出した医師も見当たらなくなった。では、研究で成果を上げているのかとなると、こちらも今ひとつ。京大に後れをとっているのが実情です」(ベテラン医師)

 ここ数年は、医療事故も相次いでいる。そのうえ、コロナへの取り組みも後ろ向きというような状況では、誇れるものが何もなくなっている。このままでは、病院が東大ブランドを失墜させる元凶と言われかねない。 

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