2022年希望退職事情 特別損失から見た「割増退職金」の最新相場は?
コロナ禍に見舞われた2021年だが、東京商工リサーチによると上場企業の倒産は5年ぶりにゼロとなった。その一方で希望退職を募った上場企業は80社を超え、93社の20年から2年連続の80社超え。経営陣の無能をよそに、2022年も「コロナ禍だから仕方ない」という大義名分がまかり通っている。
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日経連、経済同友会、日本・東京商工会議所の経済3団体の幹部が「新年祝賀会」を2年ぶりに開催。経営者同士で親交を深めることはいいことだが、東京商工リサーチによれば、昨年の「コロナ破綻」は2540件(負債1000万円以上)。倒産に巻き込まれた従業員は2万5059人に上った。実際、契約や派遣の非正規社員も含めれば、この数倍の人が失業の憂き目に遭っている。
さらに、1000人以上の希望退職を募ったホンダ、パナソニック、KNT-CTHDなど大企業でも希望退職の募集が目立った。
ホンダは55歳で最大36カ月分の割り増し
ダイヤモンド・オンラインが報じたところによると、4月に退職予定のホンダ(65歳定年)は55歳で最大36カ月分の割増退職金が支給される。管理職なら通常の退職金に割り増し分を加え、8000万円ほどになるという。1000人の募集に対して約2000人が応募したのもわかる。
ただし、ホンダのような企業はごくレアだ。
「1990年代後半、割り増し分の相場は基本給の36~48カ月といわれ、大手石油会社で通常退職金と合わせ8000万円を超える人もいました。その後、リーマン・ショックによって相場は急落し、2015年のシャープは最大でも26カ月とされました。実は、同じ企業でも希望退職を繰り返すごとに割り増し分は減る傾向にあります」(人事ジャーナリスト・溝上憲文氏)
■12カ月もらえれば御の字
退職金の割り増しは90年代から年を経るごとに減っていき、リーマン・ショック後の2010年前後は基本給の12~24カ月だったものが、今や12カ月でも御の字というところまで減っている。
「特別損失」から見た実際の相場
では、実際の割り増し(特別退職加算金)の状況はどうなっているのか。21年に希望退職に伴って計上された「特別損失」から割り増し分の相場を見てみよう。特別損失には再就職支援などの経費も含まれている場合もあるので、大まかな目安として考えたい。
昨年、コロナの影響をモロに受けた近畿日本ツーリストの「KNT-CTHD」は、パート従業員を含む1376人が希望退職に応じている。60億円の特別損失で計算すると、1人当たりの割り増し分は436万円。同社の平均年間給与468.6万円(21年3月=45.6歳)から見て、おおよそ1年分(12カ月)が支払われたといえる。
第二地銀の「中京銀行」は、150人の応募に対し特別損失が8億7800万円で、1人当たり585万円。コンピューター関連機器製造の「ローランド」は、190人に対し約12億円で631万円だ。両社の平均年間給与から見て、やはり12カ月分ほどの割り増しとなっている。
これより少ないのが、105人が希望退職に応じた「光村印刷」で1人当たり339万円。61人の「東京機械製作所」は163万円だった。光村印刷は2期連続赤字のため、背に腹は代えられない事情が垣間見える。
一方、1人当たり1481万円の割り増しを支払ったのが、カシオ計算機。81人の希望退職者に約12億円の特別損失を計上した。同社の平均年間給与は803.5万円(46.8歳)のため、基本給の約2年半分(30カ月)ほどの計算になる。もっとも、カシオは19年にも希望退職を募集し156人が応じており、その際の割り増しは185万円多い1666万円だった。溝上氏が言うように、リストラを繰り返すたびに条件は悪くなっていく傾向がわかる。
年々条件が悪くなっていくリストラ事情だが、希望退職の募集数より応募者数が上回る事例が相次いでいる。
1000人の募集に2000人もの社員が手を挙げたホンダがその代表だが、アパレルの「青山商事」は当初予定の400人を上回る609人が応募。同じく「三陽商会」も150人の募集に180人が集まった。また、「セガサミー」は650人に対して729人が応募している。
これが少し前なら企業側が指名解雇に近い形で強行しても予定数に満たなかったもの。台湾の鴻海精密工業に買収される直前の15年のシャープでさえ、3500人の募集に対し応募は3234人と下回っていた。会社の将来に見切りをつけたのか、はたまた働き方の意識そのものが変わってきているのか、「割増退職金をくれるタイミングでこれ幸い」と会社を去る人が増えている。
「かつてはリストラを恥に思う経営者が多くいましたが、90年代以降、資質に欠けた経営者が増えた。リストラしても現経営陣は減俸などでお茶を濁して終わりというところも少なくありません」(溝上氏)
無能な経営者が「コロナ」を言い訳
もちろん、アパレルや繊維、観光業など赤字に苦しむ企業もあるが、希望退職を実施した上場企業のうち約4割は黒字。コロナを言い訳に22年も黒字リストラの横行が予想されるが、はっきり言って経営者の無能が原因だ。
「欧米では業務悪化時に、再雇用を前提に従業員を一時的に解雇するレイオフの制度があります。コロナで一時解雇されていた海外の航空会社の客室乗務員たちも、今は続々と古巣に戻ってきています。解雇規制が厳しい日本でレイオフは浸透しないといわれてきましたが、全日空が退職後5年以内であれば正社員として復職できる制度を検討しています。解雇のハードルを下げるという懸念もありますが、片道切符の希望退職と違って経験豊富な人材の流出を防ぐ役割もある。労働組合との協議で今後どうなるのかわかりませんが、少なくともANAホールディングスの経営陣は知恵を絞っています」(株式評論家・倉多慎之助氏)
22年に入っても、「博報堂」が100人程度の希望退職を予定中。「加藤製作所」も100人程度、2年連続となる「シャルレ」は目標人数を設けずに退職者を募る。さらに、19年に2850人の希望退職を行った「富士通」も再募集の動きがある。
コロナを言い訳に割り増し条件を下げて希望退職を募る経営陣にはお灸を据える必要がある。