「希望退職」を強要する会社の手口 年間100社超えペース

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「会社にとって希望退職は“タテマエ”で、ホンネは問題社員を追い落とす“肩叩き”が狙いのはずです。その手口を教えてください」

 昨年の希望退職が上場企業で前年の2・6倍となる93社に上ったことを受け、生き残りを望む社員がどう会社と交渉すればいいか。1月27日付の当欄では、その交渉術を取り上げたところ、こんな声が寄せられた。今年は先月末で28社。年間100社を上回るペースだけに、会社の手口を知っておいて損はない。

 ◇  ◇  ◇

「会社が従業員に解雇を強要するのは違法ですが、従業員の合意のもとに成立する退職勧奨は違法ではありません。会社はその合意を得ようと、社内の制度や規則を整え、綿密に準備します。万が一、リストラした社員に訴えられても、裁判で違法性を問われないようにするのです」

 こう言うのは、働き方改革総研代表の新田龍氏だ。新田氏は、違法な退職強要を受けた人のほかパワハラで苦しめられた社員などをサポートする活動も行う。会社の裏の裏を知り尽くすプロだ。では、会社はターゲットとする社員についてどんな準備をするのか。新田氏の解説で順番に見ていこう。

■ステップ1a 就業規則を整備し、問題社員の周辺調査

 社員の調査は、これまでの人事評価資料や懲罰実績だけではない。

「会社は、上司や同僚、部下にもヒアリングし、家族構成や配偶者の仕事の有無と内容、子供の有無と年齢、持ち家か賃貸か、持ち家ならローン残高はどの程度か、要介護親族の有無などとにかく細かい。場合によっては社外での酒席のトラブルや女性関係に及ぶこともあります。会社が個別面談で主導権を握るためで、社員の反論に根拠を挙げて説得できます。その情報を役員や上司、人事部などが共有し、会社一丸となって対応し、面談では会社の総意であることが示されます」

 退職勧奨をスムーズに行うべく、就業規則に不備があれば、あらかじめ整備されるという。

■ステップ1b 面談当日は異性のメンバーが1人同席する

 1対1の面談では、後々「言った・言わない」のトラブルになりやすいし、パワハラ的な言動が「あった・なかった」のリスクも伴いやすい。

「会社が異性の面談員を用意するのは、従業員の感情的、衝動的な言動を抑えるためです。その異性社員は、様子を観察するのが目的。必ずしも発言するとは限りません」

問題行動の例示はとにかく具体的に

■ステップ2 問題社員を個室に呼び退職を求める意向が伝えられる

 いよいよ“決戦”だが、いきなり退職の話にはならず、少々回りくどくなるという。

「事前に用意した資料を基に、具体例を示しながら『これまで多くの問題行動が見られました』→『会社として再三にわたって指導してきました』→『ところが、改善が見られませんでした』→『あなたと当社は合っていないのではないか』or『社外で活躍できる会社を見つける方がいいのではないか』と順を追って査定の悪さと共に退職を促さねばならない根拠が言い渡されます。そして『会社として、あなたに退職してもらいたいと考えているので、合意してほしい』という流れになるのです」

 大まかな面談の流れを踏まえた上で、細部をチェックする。まずは、問題行動については、こんな具合だ。

「◎月△日に顧客対応トラブルの際は、――という改善策が示されましたが、その後も同様のトラブルが続き、□月に注意指導書が出されました」

「Aさんには○回の指導記録があり、▲回の警告がなされています。その都度、改善をお願いしましたが、今回も同様のトラブルで……」

 従業員は少しずつミスを突きつけられ、外堀を埋められていく。

「遅刻や職務怠慢、指示に従わない、虚偽報告などは口頭注意で済むケースもありますが、退職勧奨の対象者になると、その都度、懲戒処分としてチェックされ、注意や減給、出勤停止などが行われます」

雇用継続努力の説明もぬかりなく

 たとえば、顧客トラブルがあった社員に対し、「ご意向を尊重し、顧客との接点がない部署への異動も実施しましたが、それでも残念ながらトラブルが起きてしまい」といった具合に、会社は雇用を継続した努力を示すという。「教育研修期間を設けましたが、改善が見られず、○カ月にわたって業績が回復しませんでした」と雇用継続努力を添えて、査定の悪さが示されるそうだ。

 実はこれ、1999年の東京地裁判決を受けた会社の“防御策”だ。

「ある会社が査定の低い社員50人を人員整理しようとしたのですが、1人が応じませんでした。そこで会社は、就業規則に定められた『労働能率が劣り、向上の見込みがないと認められたとき』を理由に解雇。その社員は解雇無効を求めて、東京地裁に提訴しました。その結果、業務遂行能力の低さは認められたのですが、解雇は無効の判決。解雇事由の『向上の見込みがない』に対し、会社は教育や指導などで能力を向上させる余地がありながら、その指導を怠ったとの判断で、解雇無効になったのです」

失業保険、懲戒ナシ…何でもエサに落とす

■ステップ3 退職勧奨は最終段階

 会社がわざわざ雇用継続努力を示すのは、そのため。逆に会社の雇用継続努力がなければ、社員には“攻撃材料”になるだろう。

 会社はこれらの材料をそろえた上で退職を促してくるという。「処遇を検討した結果、お任せできる仕事がない」「この会社が合っていないと考えます。退職していただいて、社外での機会を得ていただきたいと……」といった具合で、用意できる企業はここで「退職パッケージ」をエサに、“ダメ押し”するという。

「退職届を提出していただくことで離職票は『会社都合退職』扱いとします。そうすれば、失業保険を最長330日間受給できます」「自主退職に合意していただければ本来なら『懲戒解雇処分相当』のところ、『自己都合退職』扱いの懲戒ナシとして、離職票にもそのように明記します」……。

反論する従業員のNG行動

 会社はそうやって揺さぶりをかける。その場で回答を求めず、「ご家族とも相談し、○日にまた面談を」などとして回答を要求するという。

 残留を希望する人は、当然、反論があるだろう。会社の手口を踏まえた上で、どう対処すればいいか。

「『何でもやる』、あるいは具体的にタスクの名前を挙げて『この仕事を頑張りたい』などは、どちらも得策ではありません。会社側は『あなたにお任せする仕事はない』『そのタスクは業務見直しでなくなります』などと否定されやすい。そうすると、社員に反論の余地がなくなり、かえってつらくなるので、『会社に貢献したい』などと組織への貢献をアピールすることです」

 前回の交渉術でも触れたが、希望退職の応募を促されたりしたら、「応募することはない」ときっぱりと否定すること。そうすると会社は優遇措置をチラつかせてくるだろうが、「退職する気がないので、優遇制度は必要ありません」だ。「決めるのはあなた」などと精神的なプレッシャーには、家族や周りへの相談でかわしながら、度重なる面談要求も回避していくのがいいという。

 理不尽な会社の言動に惑わされず、冷静に切り抜けるしかないだろう。  

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