マイナンバーの矛盾を徹底批判「0.01%を切り捨てる“上からのデジタル化”は人権を蔑ろにする」

公開日: 更新日:

「バラマキ=普及」の勘違い

 ──厚労省の中には、河野大臣のやり方に不満もあると聞きます。

 厚労省はマイナ保険証への一本化は容易でないと考えていたふしがあります。だから、オンラインシステムも健康保険証(被保険者番号)でも資格確認できるようにしていたし、一本化は何年も先の話だと思っていたはずです。ところが、昨年10月に突然、24年秋の保険証廃止方針が示され、うまく乗せられてしまった。

 ──デジタル庁が主導しています。

 首相直属のデジタル庁が推進することで、現場の声が届かず、暴走につながっている面があります。厚労省主導なら、保団連の指摘も真摯に受け止め、丁寧に進めていたかもしれません。長年、医療行政の実務を担い、現場を知っているからです。

 ──今年度補正予算には「マイナ保険証の利用促進・環境整備」に887億円、マイナカードの取得環境整備等に899億円が盛り込まれています。マイナ保険証の利用率が上がった医療機関に対する支援金や広報に力を入れるようです。

 お金をバラまけば、利用すると勘違いしている。国民はバカにされています。CMなども大量に流すのでしょうが、そんなことで不安が解消し、利用が進むはずがない。

 ──黒田さんは、構想当初から、マイナンバー制度はうまくいかないと一貫して主張しています。

 マイナンバー制度の出発点は、行政機関が持っているさまざまな個人情報を名寄せする際、名前や住所だと間違いが起きるからマイナンバーという番号で、という話だったのです。ところが、個人情報とマイナンバーがうまくひも付けられなかった。“はじめの一歩”でつまずいているのです。

 ──なぜ、失敗したのですか。

 日本は漢字があり、読みがいろいろある。ひらがなもカタカナもある。アルファベットしか使っていない国とは全く違う。それに、行政、健康保険、年金などの管理もさまざまなのに、そういう調査もしっかり行わないままに、住民票に番号を振ってしまえば、何とかなると、スタートしてしまったのです。

 ──国民と番号のひも付けにしくじりながら政府はマイナンバーの利用拡大に躍起です。

 利用拡大すればするほど新たなひも付け誤りが続出するのは避けられません。

 ──具体的には?

 これから約80の免許や国家資格へのひも付けが始まります。しかし、住所が取得時のままのものや、そもそも住所登録が不要な免許や資格も多々あります。ひも付け誤りが多発するのは目に見えています。

■「保険証廃止」あきらめはダメ

 ──他にはありますか。

 固定資産の所有者把握にもマイナンバーを使う計画だが、間違いは必ず起きる。例えば、大阪市内の建物所有者は大阪市民とは限らない。本人からマイナンバーの届け出がなければ、大阪市の職員は氏名・住所をもとに、住基ネットで1億2000万人の中から探し出し、ひも付けなければならない。もちろん死者名義のままのものもある。簡単な作業ではありません。

 ──政府は健康保険証を来年12月2日に廃止し、新規発行を停止することを決めました。最長1年の猶予期間があるとはいえ、どんな事態になりますか。

 現在はマイナ保険証の利用率は4.3%にとどまっています。使う機会が少なく、トラブルにも出くわさない。保険証が廃止されれば、多くの患者はトラブルを経験することになる。それがいやでマイナ保険証の登録を解除し、資格確認書の発行を求めれば、健保組合や会社の総務などにしわ寄せがいくでしょう。保険証存続を求める声が高まっていくはずです。

 ──保険証廃止は全国民に関係のある身近な問題です。

 岸田政権の「上からのデジタル化」がうまくいかないのは明らかです。これは世論の力で止めるしかない。そういう流れになっていくと思います。あきらめてはならないのです。

(聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)

▽黒田充(くろだ・みつる) 1958年、大阪市生まれ。大阪府立大工学部卒業後、大阪・松原市役所に就職。総務、税務に携わる。97年に退職し立命館大大学院社会学研究科に進学、修士号取得。2002年、自治体情報政策研究所設立。大阪経済大や大阪樟蔭女子大で非常勤講師を務めた。近著に「健康保険証廃止にストップを」(日本機関紙出版センター)がある。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “ケチ付き昇進”横綱豊昇龍がまた休場…名ばかり横綱だった先輩2人との「いや~な」共通点

  2. 2

    参政党が急失速か…参院選「台風の目」のはずが賛同率ガタ落ち、他党も街頭演説で“攻撃”開始

  3. 3

    英サッカー専門誌の韓国人元編集長に聞く「韓国から見た森保ジャパン」【東アジアE-1選手権連覇】

  4. 4

    “金星プレゼンター”横綱豊昇龍に必要な叔父の図太さ…朝青龍は巡業休んでサッカーしていた

  5. 5

    参院選で激戦の千葉選挙区で国民民主党“激ヤバ”女性議員を自民県連が刑事告発し泥仕合に

  1. 6

    中日についてオレが思うことを言っちゃおう。一向に補強もせず、本当に勝ちたいのだろうか

  2. 7

    “トンデモ発言”連発の参政党が参院選終盤でメディア批判を展開する理由…さや候補も「マスコミはウソつき」

  3. 8

    参院選後に日本で始まる「国債売り」と金利上昇に市場ビクビク…トランプからは利上げ圧力の“二重苦”

  4. 9

    阿部巨人が今オフFA補強で狙うは…“複数年蹴った”中日・柳裕也と、あのオンカジ選手

  5. 10

    参院選神奈川で猛攻の参政党候補に疑惑を直撃! 警視庁時代に「横領発覚→依願退職→退職金で弁済」か