胃がんの原因になるピロリ菌の毒素が認知症予防に有効?
ヘリコバクター・ピロリ菌というのは人間の胃の中で生育している特殊な細菌です。地下水の中などにいて、お子さんの時期に人間に感染すると考えられています。その感染が長期間持続すると、慢性の胃炎や胃潰瘍、胃がんなどの原因となります。そのため、ピロリ菌がいることが確認されると、抗菌剤などによる、除菌治療が行われているのです。
このように人間に対する「敵」のように思われることが多いピロリ菌ですが、その菌が産生する毒素の意外な性質が、最近、専門家の間で注目されています。「CagA(キャグエー)」と呼ばれる毒素です。
ピロリ菌が感染する細胞に注入するタンパク質で、細胞に炎症を起こすような働きのあることが知られています。今年の基礎科学の専門誌に掲載された論文では、このピロリ菌毒素の性質を、細胞などを用いた実験で分析しています。
ピロリ菌毒素は大腸菌など他の細菌の増殖を抑える働きがあるのですが、それは細菌を守るアミロイドという特殊な構造のタンパク質を、この毒素が作られないようにしているためであることが明らかになったのです。
このアミロイドは、認知症の多くで脳に沈着している成分の仲間で、認知症で脳に沈着するアミロイドも、ピロリ菌毒素で作られなくなることが確認されたのです。ピロリ菌の毒素は、実は認知症予防に有効であるのかもしれません。