kamos(かもす)=京島 「生活」と密着した空間に“社会の端っこ”をのぞくような本が約500冊
こんなに昭和な町が東京に残っていたんだ。と「キラキラ橘商店街」を歩き、「空襲で焼けなかったので、自然と店が集まってきた」と商店街事務所に寄り道して聞く。まち歩きは楽しいな──。
その商店街の中ほどに、「kamos」は、いぶし銀の佇まいを見せていた。
「元は鮮魚店だったそうです」と店主の大久保勝仁さん(31)。なるほど、推定15坪の店内に大きな冷蔵庫の跡形あり。
入るとすぐに、オレンジ地の「プロテストってなに? PROTEST!」が面陳列され、選び抜いたであろう約500冊が並ぶ新刊書店だ。今年5月にオープンした。
「店名は『醸す』の意味ですか?」
「ええ。銭湯『電気湯』をやってきて、底にたまっちゃったものを」
大久保さんは元国連関係機関の職員だ。東南アジアでのヒアリングを集約し「60年先のトレンド」をつくる仕事に従事していたが、退職。2019年に、1922(大正11)年から続いてきた家業「電気湯」を継いだのは「地域インフラと生活文化をなくしてはいけない」の思いから。電気湯は、若い人たちも雇用し、イベントも開催。地域外からも人を呼ぶまでになるが、集う多くは、いわば“意識高い”系。「他人であることを前提に一緒にいるという、この町の作法とズレてきた」と。ズレた何がしかが、「底にたまっちゃったもの」で、醸す一助をと本屋を開いたのだ。縷々として聞き、そう理解した。
北村匡平ら気鋭の研究者が読んだベスト本をサブスク
積年の地域の「生活」と密着した空間に、古道具店で仕入れたという家具類が似合う空間だ。
「置いているのは、“社会の端っこをのぞく”みたいな本ですねー」とのことで、棚を凝視。「私的判決論」「ブルックリン化する世界」「猫を愛でる近代」「食べることと出すこと」とばっちり目が合い、「哲学、思想、都市論、身体論……」と独りごちる。
独特なのは、選書のサブスクだ。伊藤亜紗、北村匡平、Chim←Pom、朱喜哲ら気鋭の研究者がおのおの読んだ、「知らない誰かと生きる」テーマのベスト本が2カ月ごとに届けられるサービス。目下、利用者が26人に広がっているという。
◆墨田区京島3-48-1/京成押上線京成曳舟駅から徒歩15分/日・月・水曜の午後3~7時半ごろに開店(変更もあるので、SNSで確認を)
ウチらしい本
「ハンナ・アーレントと共生の〈場所〉論」(トポロジー)二井彬緒著
帯に「アーレントはパレスチナ/イスラエル問題をどう語ったのか?」とある。
「僕らが共生していくことが困難なのは、他者への想像力がないからと思われがちですが、そうじゃない。共生することができない空間、テクノロジーなど周辺環境の中で生きてしまっているから。といったことを、空間論や哲学を引用して、書いています。読みやすいですよ」
(晃洋書房 6050円)