著者のコラム一覧
和田秀樹精神科医

1960年6月、大阪府出身。85年に東京大学医学部を卒業。精神科医。東大病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。著書多数。「80歳の壁」(幻冬舎、税込み990円)は現在、50万部のベストセラーに。最新刊「70歳の正解」(同)も好評発売中。

老衰を実現するために「リビングウィル」を

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 人は死期が近づくと、食欲が衰え、体が水分や栄養を受けつけなくなって、何も口をつけずに衰弱していき、眠るように亡くなります。それが通常の老衰死です。

 ところが、家族がそれを受け入れられないと、「少しでも食べて元気を出してほしい」と願うかもしれません。延命治療が施される可能性があります。

 血液検査で脱水が認められると、点滴で水分を補いますが、水分を吸収しづらくなっている体に点滴を行うと、脚がむくんだり、場合によっては肺に水がたまったりします。肺に水がたまった状態は、海などでおぼれているのと同じで、とても苦しいのです。

 家族にとって何も口にせず枯れるように亡くなっていく老衰死への過程はつらく感じるかもしれません。しかし、本人は少しずつ意識が遠ざかりだんだんと眠るように亡くなるので、つらさもなく苦痛もほぼないことが分かっています。

 NHKスペシャルを書籍化した「老衰死 大切な身内の穏やかな最期のために」(講談社)には、2005年にオランダで行われた研究が記されています。平均年齢85歳の重度認知症患者178人を対象に、人工的な水分や栄養補給をしないと決めた後、不快感のレベルがどのように変化するかを亡くなるまで追跡したものです。

 その結果、水分や栄養の補給をやめてからの生存期間が「2日以内」「5日以内」「9日以内」のいずれのグループでも、死が近づくにつれて不快感レベルが低下傾向を示し、最も生存期間が長い「42日以内」のグループでも、不快感レベルが低い状態で最期を迎えました。

 この研究結果が示しているのは、最期を迎えるときは食べることや飲むことをやめて、自然に任せる方が安らかだということ。延命治療はせず、老衰死を迎える方が穏やかな最期だということが証明されたといっていいでしょう。

 延命治療をするかしないかは難しい問題です。個人の死生観にかかわってくるので、一般論では答えられませんが、元気なうちに自分の考えをまとめて家族と共有しておくことは欠かせません。それをせずに認知症を患ったり、交通事故に遭ったりすると、本来は延命治療を望まないのに家族の意向で行われる可能性は十分あります。

 人工呼吸器を装着するかしないか、胃ろうや中心静脈栄養を行うかどうか……。こうしたことについては、自分なりの考えをまとめたら、リビングウィル(生前の意思)などの書面に残して家族と共有しておくことです。ただし、人には生存本能のようなものがあり、死ぬ間際になってやっぱり延命してほしいという人もいます。周りが勝手に意思を想像することは厳に慎みたいものです。

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