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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(15)乗客との会話で“悲劇の人”を演じた自分にハッとした…今も胸に刻む初老の紳士の言葉

公開日: 更新日:

 ご存じの方もおられるだろうが、タクシー業界ではお客を乗せている状態のことを「実車」と呼ぶ。長くこの仕事をやっていても、実車中のドライバーはそれなりに緊張を強いられる。なんといっても、ほとんどのお客とは初対面。乗せるお客が怖い人、変な人、面倒な人ではないかという不安が消えることはない。

 もちろん、乗車して行き先を告げるときの言葉遣いや物腰で、杞憂に終わることがほとんどだがお客によっては緊張を強いられることもある。幾度となく修羅場をくぐり抜けてきた人、あるいは生まれながらにして度胸の据わった人なら別だろうが、私のようにいたって気が弱く、いさかいが苦手なタイプは、やはり実車中は緊張する。

 たわいもない世間話でもして、打ち解けられればいいのだが、私の勤めていた会社では、挨拶、行き先の確認以外では、ドライバーのほうから話しかけてはいけないというルールがあった。私自身、決して人嫌いではないから、お客から話しかけられれば喜んでしゃべるのだが、このルールを守ってこちらから話しかけることはしなかった。

 だから「運転手さん、怒ってるの?」とか「機嫌悪いの?」などと尋ねられることも何度かあった。そんなときは「申し訳ありません」と平謝りし、会社のルールを説明してお客の誤解を解いたこともあった。自分の不安どころか、お客を不安にしてしまったことを恥じたものである。

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