「君は夜空に浮かぶ光」夢追いヒモ男にブチギレ! 追い出された彼氏のポエミーな反論。魂が…って何それ?
自称・表現者。初デートは下北沢のライブハウス
「人は夢を追うべきだ」――そんな言葉は一見美しい。だが、それが現実逃避と紙一重であることに気づくのは、いつも巻き込まれた側の人間だ。
今回の話は、夢を追いすぎて地に足がつかなくなった“自称アーティスト男”に振り回されたユカ(仮名・31歳/メーカー勤務)のエピソードだ。
相手は、マッチングアプリで出会ったカズキ(仮名・33歳)。プロフィールには「音楽活動をしています。ギターと歌で表現を続けて10年」とあり、少し尖った雰囲気が魅力的だった。やや長髪で無精ひげ、黒縁メガネをかけた風貌は、昔のミュージシャンを彷彿とさせた。
最初のメッセージはやたらとポエミーで、「君の存在は夜空に浮かぶひとつの光」なんて送られてきた。正直、寒気がしたそうだが、「表現者ってこんなものか」と半分ネタとして受け入れた。
初デートは下北沢のライブハウス。知人のバンドの演奏を見に行こうと誘われた。演奏は意外と本格的で、音楽にのめり込むカズキの姿は確かに魅力的だった。その勢いで、交際が始まった。
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夢追いヒモ生活がスタート
だが、付き合ってすぐに見えてきたのは、彼の“現実感のなさ”だった。
まず、無職。収入ゼロ。貯金もほぼない。アルバイトを勧めると「表現の時間が削られる」と即却下。どう生活しているのかと尋ねると、「音楽仲間の家に転がり込んでいたけど、今は出てきた」とのこと。つまり、家もない。
当然の流れで、カズキはユカの家に転がり込んできた。こうして“夢追いヒモ生活”がスタートする。
毎日ギターを弾き、曲を録音し、SNSにアップしては「まだ世に出す段階じゃない」と自己満の投稿を繰り返す。掃除も洗濯も料理も一切しない。「アーティストには自由な空間が必要なんだ」と堂々と言い放つ。
最初は「創作に集中してるのかな」と理解しようとしたユカも、次第に疲れていった。仕事でクタクタになって帰宅しても、カズキはソファで寝転び、「今日は空気が重かったから何も手につかなかった」と呟くだけ。食べた食器はそのまま。洗濯物は溜まる一方。
5万円のエフェクターに堪忍袋の緒が切れた
ユカが休日に掃除機をかけていると、「その音、魂に刺さるからやめて」と真顔で言われたときは、さすがにブチギレそうになったという。
それでもユカは、どこかで彼の“可能性”を信じていた。彼が「音楽一本で生きる覚悟がある」と語る姿は、現実を見ようとしない分、ある種の強さのようにも見えたのだ。
だがある日、彼がネットで買った5万円のエフェクター(音響機材)が家に届いたとき、何かがぷつりと切れた。
「仕事もせず、家賃も光熱費も払わず、私の家で寝転んでるだけの人間が、何を贅沢してるのか」と問うと、「君には僕の魂が見えてない」と言い返された。
魂より、現金が大事だ。少なくとも、今は。
その日のうちにユカは彼に荷物をまとめさせ、玄関先で別れを告げた。泣かれることもなく、「わかった。きっといつか、この日を歌にする」と言われただけだった。
夢を追うのは素敵だけれど
後日、共通の知人から「今は“自分探し”をしてるらしい」と聞いた。どうやら音楽もやめ、最近は俳句にハマっているらしい。もちろん、いまだに働いてはいない。
ユカは最後にこう語った。
「夢を追うのは素敵なこと。でも、誰かに寄りかかって成立する夢は“ただの甘え”なんだよね」
夢と現実のバランスを崩したとき、周囲の人間が犠牲になる。夢を語るなら、自分の足で立った上で語ってほしいものだ。表現は自由でも、生活は現実。
芸術の名の下に逃げ続けたその先に、誰かの未来まで巻き込むような夢なら、それはもう“夢”とは呼べない。
(まゆう)